<金口木舌>未完成の平和の礎 - 琉球新報(2021年6月24日)

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2017年54人、18年58人、19年42人、20年30人、そして今年21年は41人。何のことかピンとくる人もいよう。この5年で糸満市摩文仁の平和の礎に名が刻まれた沖縄戦犠牲者の人数である

▼名前の重複による削除もあるが、この5年で刻銘者は164人加わった。76年前の沖縄戦犠牲者数が増え続けていることに驚く。1995年の建立時からは7449人増えている
▼名も知れぬ一般住民が戦禍に倒れた沖縄戦の悲劇が表れている。軍人・軍属のような戦死者名簿はない。名を石板に刻むことで生きた証しを残したいという遺族の深い思いもここにある
▼刻銘者数が増える一方で沖縄戦体験者は減り続けている。新型コロナウイルス感染症で亡くなった高齢者の中にも体験者はいるはずだ。戦禍を生き延びた人々がコロナ禍の中で人生を終える。やりきれない思いがする
▼今年も規模を縮小した全戦没者追悼式の会場で菅義偉首相のメッセージが流れた。官房長官時代、翁長雄志前知事に対し「私は戦後生まれなので、沖縄の置かれてきた歴史については分からない」と述べた人だ。言葉が胸に響かない
▼来年も新たな名前が刻まれるだろう。朝鮮、台湾の沖縄戦犠牲者の刻銘が課題だ。未完成のまま未来へメッセージを発する平和の礎。新たな戦争による犠牲者の名を刻むことにならないよう県民は願っている。