https://mainichi.jp/articles/20201110/ddm/001/070/163000c
「米国人の重大な特長は他の諸国民よりも文化的に啓蒙(けいもう)されているだけではなく、欠点を自ら矯正(きょうせい)する能力をもっていることにある」。19世紀初めに米国の民主主義政治を観察した仏思想家トクビルの言葉である。
その「欠点を矯正する能力」を誰の目にも明らかに示すのが、選挙における民意の振り子運動と、それによる共和・民主の2大政党間の政権交代の繰り返しだった。民意のスイングごとに新しいページを開いてきた米国の歴史である。
その米国政治の振り子時計がとうとう壊れてしまったのか。そう世界を心配させたトランプ政権の4年を経ての米大統領選の開票作業の難航と、支持者間の激しい対立だった。投票日から4日、ようやくバイデン氏の勝利宣言が出た。
「これは国民にとっての勝利だ。私は分断ではなく結束をめざす大統領になる」。バイデン氏の演説は、敵と味方を分断して支持者を固めるトランプ政治への否定である。と同時に、それは米国の政治の正統への復帰宣言でもあろう。
「すべての小さな女の子はこの国が可能性の国であることを知る」。初の女性、かつ黒人・アジア系副大統領となるハリス氏の演説も、多様性とその権利のための闘いが米国の力の源泉なのを訴え、政権交代の振れ幅を示してみせた。
訴訟連発で抗戦しているトランプ氏も早晩、選挙結果受け入れを避けられまい。辛(かろ)うじて米国政治の振り子はスイングを再開した。次の4年間、未来へ向かう時を着実に刻み直すのを願うばかりである。