(筆洗) 何百万の絶望した人々に、罪もなく迫害された人々に、と独裁者… - 東京新聞(2020年8月20日)

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何百万の絶望した人々に、罪もなく迫害された人々に、と独裁者になりすました理髪師が訴えかける。<絶望してはならない…自由は滅びない>。映画史に刻まれるチャプリンの『独裁者』での六分間にも及ぶ演説は民主主義の側から独裁への抵抗を呼びかける。
ヒトラーと独裁政治を痛烈に風刺した映画は、製作された米国で、当時、絶賛一色だったかと思えば、そうではない。大野裕之さんの著書『チャップリンヒトラー』によると、ヒトラーを英雄視する人もいて、批判や脅迫めいた声もあがったという。
撮影した時期、欧州ではナチスが猛威をふるっている。イタリアやソ連などにも独裁者が存在していて、さらに大きな覇権を握るかもしれなかった。戦後も、独裁者は消えていない。欧州では東欧で命脈を保つことになる。
「演説」から八十年が過ぎ、喜劇王の呼び掛けが欧州で現実に近づいているのかもしれない。「欧州最後の独裁者」といわれるベラルーシのルカシェンコ大統領に批判が強まっている。抗議デモが収まらない。
古今東西の独裁には、自国民の迫害と弾圧がつきものである。この人も対立候補を締め出し、弾圧してきたという。コロナ禍を機に、不満が噴出しているようだ。
<人々が強欲と憎しみと残虐さを克服したそんな世界へ…今、飛び始めた>。「演説」は言う。そんな世界が待っているといい。