コロナとグローバル化 「鎖国」は長く続けられぬ - 毎日新聞(2020年3月30日)

https://mainichi.jp/articles/20200330/ddm/005/070/028000c
http://archive.today/2020.03.30-001644/https://mainichi.jp/articles/20200330/ddm/005/070/028000c

世界各国が新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に入国制限を強化している。その結果、グローバル経済システムが機能不全に陥っている。
短期的な水際対策としてやむを得ない面はある。だが、相手国との十分な調整もないまま国境を超えた人やモノの移動が次々に遮断された。「鎖国」で世界的なサプライチェーン(部品供給網)は寸断され、物流も大混乱している。
自動車やスマートフォンから生活必需品まで生産の停止が相次ぐ。長期化すれば、コロナショックによる世界的な不況を一層深刻化させかねない。
先陣を切ったのは「米国第一主義」を掲げるトランプ米大統領だった。1月末、中国からの入国を厳しく規制した。3月に入ると、感染が急拡大した欧州諸国からの入国も止めた。
トランプ氏は当初、「欧州は中国からの入国制限に失敗した」と語り、米国の感染者数が少ないことを自慢していた。だが、米国の感染者数はその後急増し、世界最多となった。水際対策が万能薬ではないことを浮き彫りにした。
にもかかわらず、世界では「鎖国」ドミノが広がる。ドイツなどは欧州連合(EU)の理念である「移動の自由」を棚上げして、国境封鎖に踏み切っている。
日本は当初、入国制限を発生源の中国・武漢などに限っていた。だが、感染拡大を受けて、対象を中国全土や韓国、欧米に広げた。
世界保健機関(WHO)は入国規制を「時間稼ぎでしかない」と指摘する。その上でグローバルな人やモノの動きが止まる副作用を考慮するように警告してきた。
実際、マスクなど医療物資の不足がなかなか解消されない背景には、「世界の工場」である中国との貿易停滞が影響している。
主要20カ国・地域(G20)は首脳声明で「国際的な交通や貿易の混乱に対応する」と宣言した。だが、互いに責任を押し付け合うような入国規制は広がるばかりだ。
グローバル経済が分断したままでは、治療薬の開発も遅れ、パンデミック(世界的な大流行)の早期終息は望めない。貿易の停滞は世界的な不況を深刻化させるだけだ。各国は「鎖国」を長く続けられないことを認識すべきだ。