新しい中学校教科書 現場で十分活用できるか - 毎日新聞(2020年3月30日)

https://mainichi.jp/articles/20200330/ddm/005/070/026000c
http://archive.today/2020.03.30-001318/https://mainichi.jp/articles/20200330/ddm/005/070/026000c

来春から中学校で使われる教科書の検定結果が出た。新しい学習指導要領に対応する初めての教科書となる。
生徒同士の議論や課題の探究を通じた「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)を重視した内容となっている。
例えば、社会科では、戦国時代から江戸時代にかけて武家政権が安定度を増していった背景をグループで討議させ、最終的に「この時代の特色」を自分の言葉で説明するよう求めている。
暗記偏重といわれた歴史の授業で、思考力を伸ばそうという方向性は理解できる。
しかし、課題も多い。まず、こうした授業を多くの教師が狙い通りに行えるかどうかだ。
これまで各地で教師向けの研修会などが開かれてきた。だが、教育現場で実践している例はまだ多くはない。
経済協力開発機構による2018年勤務状況調査では、日本の中学教師のアクティブラーニングへの取り組みは加盟国の平均より遅れていた。
学校ごと、教師ごとの差を広げないためには、研修などを一層充実させる必要がある。また、教師が忙しすぎて新たな指導法を身につける余裕がないとの指摘もあり、働き方改革が欠かせない。
消極的な生徒にグループ討議への参加を促す指導力も問われる。
一部の生徒だけが常に発言し、グループとしての意見をまとめていたのでは、討議を通じて自分の考えを深めることができない。
教師には、生徒一人一人の参加意欲を高めるコーディネート力が求められる。
新しい教科書では、LGBTなど性の多様性に関する記述が各教科で増えた。また、スマートフォンの急速な普及に伴い、SNS(ネット交流サービス)の適切な使い方も重要なテーマとなった。社会の変化に対応するための学びはますます大事となる。
新指導要領でも中学の授業時間数は変わらない。教師が教えるべきことが増えると、どんな教科書も十分活用できないだろう。
国は授業で何に力点を置くべきか、目安を示すべきではないか。現場任せにせず、丁寧に考え方を説明する必要がある。