感染症と公文書 「抜け穴」探しは認めない - 信濃毎日新聞(2020年3月11日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200311/KT200310ETI090007000.php
http://archive.today/2020.03.11-010535/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200311/KT200310ETI090007000.php

新しいウイルスの感染が広がり、市民の生活や活動に甚大な影響が及ぶ事態に政府はどう対応したか。後の検証に生かすには、政策判断の過程をつぶさにたどれる記録が欠かせない。
新型コロナウイルスの感染拡大を、公文書管理の「歴史的緊急事態」に指定することを政府が決めた。国家・社会が記録を共有すべき歴史的に重要な政策事項として議事録の作成などを義務づけ、文書管理を徹底する。
そのことに異存はない。ただ、運用は裁量の余地が広く、実際にどこまで記録が残るのか心もとない。安倍政権の下では公文書がないがしろにされ続けてきただけに、指定が生かされるか、厳しく見ていかなくてはならない。
行政文書の管理指針で定める仕組みだ。民主党政権当時に起きた東日本大震災の際、政府が議事録を残していなかった反省を踏まえて制度化された。
政策を決定した会議について、発言者や内容を記した議事録の作成を義務づける一方、それ以外は確認事項などが分かる議事概要で足りる。首相や閣僚、関係省庁幹部らによる「連絡会議」は、議事録が作られない可能性がある。
対策本部の会議に先立つ非公式な協議の場として1月下旬以降、毎日のように開かれてきた。学校の一斉休校の要請も、連絡会議で事実上決まったとされる。
ところが、その議事録を政府は残していない。安倍首相は、最終的な決定は対策本部で行っていると述べ、連絡会議の議事録の作成に前向きな姿勢はうかがえない。野党からの開示の求めに、政府は応じる考えを示したものの、議事概要にとどまりそうだ。
大規模なイベントの中止・延期の要請を含め、唐突に打ち出された対応策は、どこでどう決まったのか。首相の「政治判断」はどういう経緯でなされたのか。分からないことは多いが、確かめる手がかりが見つからなくなる。
公文書管理法は、行政が適正に運営されていることを国は現在及び将来の国民に説明する責務を負うと定める。その趣旨を踏まえ、行政文書の管理指針は、国務大臣が加わる会議について、議題や発言内容を記載した議事の記録を作成することを義務づけている。
非公式の場とはいえ、首相や閣僚が出席する連絡会議は政策決定に重要な意味を持つ。政府が議事録を残すのは当然だ。仕組みの「抜け穴」を見つけて、政策判断の背後の事情や議論を覆い隠すような運用は認められない。