新型コロナ対応 検証に堪える記録残せ - 朝日新聞(2020年3月10日)

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これまで知られていなかった新しいウイルスへの対応である。試行錯誤は当然だろう。だからこそ、その一部始終の記録をしっかり残し、将来の教訓とする必要がある。
安倍首相がきのうの参院予算委員会で、新型コロナウイルスの感染拡大を、行政文書の管理に関するガイドラインが定める「歴史的緊急事態」に指定する方針を示した。政策を決めた会議の議事録の作成や資料の保存などが義務づけられる。
森友・加計学園桜を見る会をめぐる問題など、この政権で公文書の改ざんやずさんな管理が続いてきたことを思えば、一定の前進ではあろう。政府の裁量で範囲を狭めることなく、客観的な検証に堪える十全な記録としなければならない。
首相はこれまで、大規模イベント自粛や全国一斉休校の要請、中国と韓国からの大幅な入国制限と、科学的な根拠を示すことなく、国民生活に大きな影響を与える「政治判断」を繰り返してきた。
どんな情報に基づき、その措置に伴うメリット、デメリットをどう評価して、最終的な決断に至ったのか。首相は国民に協力を求めた先日の記者会見で、「政治は結果責任だ。その責任から逃れるつもりは毛頭ない」と述べた。であるなら、自らの政治判断の過程も含めて残してもらわなければ困る。
記録に対する政府のこれまでの対応は明らかに不十分で、問題意識に欠けていた。閣僚らでつくる対策本部の議事概要こそ順次公開しているが、首相や担当閣僚らが実質的な方針のすりあわせを行っている連絡会議の記録はまだつくられていない。
過去3回の専門家会議についても、速記録をつくったのは1回だけで、残りの2回は休日だったため速記者の手配ができなかったという。録音もしていないとは、にわかに信じがたいが、事実なら怠慢である。
自民、公明両党は東日本大震災の際、当時の民主党政権が震災関係の15会議のうち、原子力災害対策本部など10会議の議事録をつくっていなかったことを厳しく批判した。いま、その矛先が我が身に向かう。政府にしっかり記録を残させる。それは与党の責任でもある。
新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象に新型コロナを加える改正案は週内に成立する見通しだ。8年前の特措法成立時、参院は政府に対し、対策の「記録を作成し、保存し、公表する」などと求めた付帯決議を採択した。
記録は後の検証のためだけではない。政府の措置に国民の幅広い理解と納得を得るためには迅速な公開もまた欠かせない。