発言記さぬ経産省文書 理念をねじ曲げる運用だ - 毎日新聞(2018年9月1日)

https://mainichi.jp/articles/20180901/ddm/005/070/031000c
http://archive.today/2018.09.01-024347/https://mainichi.jp/articles/20180901/ddm/005/070/031000c

経済産業省が公文書管理の指針を職員に説明した内部文書で、省内外の打ち合わせ記録について「議事録のように個別の発言まで記録する必要はない」と説明していた。
文書には「いつ、誰と、何の打ち合わせかが分かればいい」とも書かれている。詳細な議事録を残さないよう指示する内容だ。
森友・加計学園問題を受けて、公文書管理の指針は昨年12月に改正された。政策立案や事業方針に影響する打ち合わせは記録を文書に残す。他の省庁や政治家とのやり取りや発言は、相手の確認を取り、正確に記録する。そう求めている。
ところが、経産省の内部文書は、発言そのものを記録させないような指示だ。同省の職員は毎日新聞の取材に「誰が何と言ったのか分からないよう議事録を残してはいけない」とまで言われたと証言している。
この通りに運用されれば、すべての発言を公文書から消し去ることになる。残すべき文書の中身が骨抜きにされかねない。公文書管理の理念をねじ曲げる指示であり「文書隠し」よりも悪質だ。
森友・加計学園問題では関係者の発言や協議内容が記録に残されておらず真相解明が阻まれた。それを反省しての指針改正だったはずだ。
公文書は、結論が記録されていればいいというものではない。むしろ、決定までのプロセスを記録することで、後の検証を可能にするためにある。途中が省かれてしまえば、公文書の目的は果たせない。
同省は、必要な際は議事録を作るというが、必要、不必要の線引きはあやふやで、恣意(しい)的になる。そうなれば、発言記録を残すとしても、情報公開の対象にならない「私的メモ」ばかりになる恐れがある。
森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざん事件などを受けて、政府は7月に再発防止策を策定した。内閣府や省庁に公文書管理を監視するポストを設けたり、電子決裁システムを推進したりする内容だった。
だが、あらゆる文書を公文書としてきちんと記録し保存する仕組みがなければ問題の解決にはならない。
政府は経産省の内部文書が指針を逸脱していることを認めて是正を指導し、他の省庁のルール運用も点検して速やかに公表すべきだ。