公文書管理 都合の悪い情報も残せ - 東京新聞(2019年7月29日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019072902000143.html
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首相と省庁幹部との面談記録を官邸が作っていないことが判明した。「所管省庁が作成する」というが、官邸側の責任があやふやになる。政治判断の重要な記録だ。公文書として残すべきである。
「打ち合わせ記録は政策を所管する行政機関が、公文書管理法に基づいて必要に応じて作成する」-。菅義偉官房長官は先月上旬、こう述べた。首相の面談記録を官邸で作成しないことの説明だ。
内閣官房所管の災害対応についても面談記録は作成しないという。「災害対応は報告も簡潔で、首相の指示が既に実施され、方針の修正がない場合は議事録を作成しない」と述べた。
これはおかしい。簡潔であれ、文書や議事録を残さないと、後から首相の指示が適切であったか、検証も不可能になる。福島第一原発事故では、政府関係の会議議事録さえ作成されていなかった。大災害時には首相は行政トップとして権限を握り、指示、命令を出す存在である。
重要政策でも首相の主導で大事な方針が下される場面はいくらでもあろう。その意思決定のプロセスを覆い隠してはいけない。
国民は正しい情報を得ないと、主権者として正しい判断ができない。公文書管理法が「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置付けるのは、そんな精神に基づく。将来の国民への説明責任をも負う。官邸の姿勢は法の理念を踏みにじるに等しい。
森友学園問題では財務省の公文書改ざんが明らかになった。陸上自衛隊の日報問題や統計不正問題などが立て続けに発覚し、行政への信頼が揺らいでいる。
今回の参院選で野党が公文書管理の徹底を公約に掲げたのも、政府の隠蔽(いんぺい)主義に対抗するためであろう。国会に行財政監視院を創設する案を出した党もある。公文書管理庁を創設する案もある。
加計学園問題では愛媛県職員が二〇一五年、当時の首相秘書官と官邸で面談記録を残した。「本件は首相案件」「国家戦略特区の方が勢いがある」などの助言が愛媛県側から明らかにされた。
政権に都合のいい文書であれ、都合の悪い文書であれ、すべて記録することに意味がある。公文書管理と情報公開は民主主義の車の両輪にたとえられる。
忖度(そんたく)政治がはびこり、文書をメモ扱いし、自在に廃棄し、隠蔽する-。そんな恣意(しい)的な管理を許さないために新たな制度構築は必須である。