(余録) 国会には大勢の裏方がいる… - 毎日新聞(2020年10月28日)

https://mainichi.jp/articles/20201028/ddm/001/070/112000c

国会には大勢の裏方がいる。衆参両院に籍を置く速記者もそうだ。本会議や委員会の審議を特殊な記号で書きとめ、会議録に起こす。録音技術が普及していなかった1890年の第1回帝国議会から130年続く専門職だ。
現代語の速記術を考案したのは研究者の田鎖綱紀(たくさり・こうき)である。議会開会の8年前に東京で日本傍聴筆記法講習会を開いた。門下生の多くが議会の速記者として採用されたという。その開講日にあたるきょう10月28日は「速記記念日
一言一句記録された政治家の発言は公表され、国民の議論を促す。民主主義を下支えしている役割の大きさを痛感する。大荒れの審議でも委員長席の目の前で黙々とペンを走らせる姿が印象的だが、それも様変わりしそうだ。
新型コロナウイルスの影響で、参院では議場に入らず、中継画像を見ながら机上のパソコンに文字を打ち込む。衆院では議場内の隅に席を移し、併せて独自に導入している自動音声認識システムの活用も進める。デジタル化は時代の流れだろう。
各党の代表質問が始まる。「温室効果ガスの2050年排出ゼロ」をどう担保するのか。日本学術会議の人事問題に向き合わないのはなぜか。何より日本をどんな国にしたいのか。菅義偉首相の答弁内容が問われる国会である。
記録をつくる手法は変わっても、政治家のことばが民主主義をかたちづくることに変わりはない。速記者たちは歴史に刻み込もうと発言に耳をそばだてるだろう。実のある論戦を期待したい。