原爆展と政府 後援見送りを撤回せよ - 朝日新聞(2020年3月5日)

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被爆者が世界に発する核廃絶の訴えを、唯一の戦争被爆国の政府が後押ししないのか。外務省は考えを改め、これまで通り展示を後援するべきだ。
被爆者らでつくる日本原水爆被害者団体協議会日本被団協)が、米ニューヨークの国連本部で4月下旬から開く「原爆展」をめぐって、外務省が内容に難色を示し、後援を見送ると伝えていたことがわかった。
日本被団協によると、被爆者の写真や証言を中心に50枚のパネルを展示する。そのうち福島第一原発旧ソ連チェルノブイリ原発の事故をテーマとする2枚が問題にされたという。
原爆展は、5年ごとに開かれる核不拡散条約(NPT)再検討会議にあわせ、日本被団協の主催で2005年に始まった。これまでも原発事故に関するパネルを展示し、後援を得てきた。今回、外務省の担当者は「NPTの3本柱の一つに原子力の平和利用がある」と話したという。
被爆者の願いは、核による被害を二度ともたらさないことだ。広島と長崎に投下された原爆への反対に加え、悲惨な事故を起こした原発にも問題意識が向かうのは自然なことだろう。
外務省は何を懸念したのか。引き続き原子力エネルギーを活用していく政府方針との違いを指摘したようだが、なぜ急に対応を変えたのか。福島の事故を想起させることが東京五輪に悪影響を及ぼすと心配したのか。
詳しい説明はなく、日本被団協が反発するのも当然だ。展示内容は既に国連と合意済みで、外務省の後援がなくても、広島、長崎両市との共催で予定通り開くという。茂木外相は記者会見で「しかるべく(後援の)審査中だ」としてコメントを控えたが、後援するよう指示するべきだ。
NPT体制に基づく国際社会の核軍縮への取り組みは、進展どころか後退しているのが実情だ。自らの高齢化が進む被爆者の代表者は、今回も再検討会議や展示の場に赴く。焦りもにじむその姿勢に、日本政府は真摯(しんし)に向き合わねばならない。
被爆者の声は、3年前に成立した核兵器禁止条約の推進力にもなった。多数の非核保有国が賛同し、核兵器の製造や保有などを禁じるその内容は、被爆者の目標と重なる。ところが日本政府は、「保有国と非保有国の橋渡しをする」と言いながら、核禁条約に背を向けたままだ。
被爆から75年の今年、原爆をめぐる展示や催しが国内外の各地で予定されている。核の非人道性を身をもって知る被爆者の訴えに耳を傾け、世界に伝え、共感を広げる。政府はその一翼を担うべきだ。