(余録)「宵」を辞書で引くと… - 毎日新聞(2020年2月19日)

https://mainichi.jp/articles/20200219/ddm/001/070/100000c
http://archive.today/2020.02.19-002728/https://mainichi.jp/articles/20200219/ddm/001/070/100000c

「宵(よい)」を辞書で引くと「日が暮れて間もないころ」といった語釈の他に「祭りの前夜」とある。江戸の昔、「花の宵」といえば花見の前夜のことで、一家そろっての翌日の準備に浮き立つ気分を表す言葉だった。
「花の宵今道心(いまどうしん)のたくさんさ」。新参の僧をいう今道心、ここではてるてる坊主のこと。「花の宵下女こんにゃくによりをかけ」は弁当の準備である。「髪を結うそばで重詰めあけて見せ」。花見のおめかしは弁当以上に大事だった。
そろそろ桜の開花予想が気になる季節だが、今年は何年か前の「花の宵」をめぐり国会が紛糾した。「桜を見る会」の前夜、安倍晋三首相の後援会が主催した夕食会をめぐる首相答弁がうそではないかと野党が追及しているのである。
野党が問題視するのは、夕食会の費用が政治資金収支報告書に記載されていないことだ。会費は参加者各自が会場のホテルに支払い、主催者への請求明細書はないとの首相答弁だが、相反する説明が当のホテルからなされたのである。
まず野党の照会には、明細書を出さない例はないと回答したホテル側だ。追及された首相は営業秘密がからむ案件は回答の範囲外だとホテル側に説明されたと答弁したが、小紙取材にホテル側は「例外はない」と首相答弁を否定した。
記録がないなどと首相の横車をうやむやにする役人を見慣れた身には、分かりやすいホテル側の言明だ。ならば、うそをついているのは誰か。何とも無粋(ぶすい)な謎解きを強いられる今季の「花の宵」である。