検察と政権 異例の人事 膨らむ疑念 - 朝日新聞(2020年2月11日)

 

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東京高検検事長の定年延長が波紋を広げている。厳正公平・不偏不党であるべき検察のトップ人事を、政権が恣意(しい)的に行おうとしている。そんな疑いを呼び起こしたからだ。
指摘が的を射ているか、経緯はつまびらかにされていないため判然としないが、こうして検察のあり方に疑念がもたれること自体が由々しき話だ。
今月7日で定年退官するはずだった黒川弘務(ひろむ)氏の勤務を半年間延長することが、直前の閣議で急きょ決まったのが発端だ。
検察庁法は、検事総長は65歳で、それ以外の検察官は63歳で退官すると定める。内閣は、引き続き担当すべき重大案件があるとして国家公務員法の定年延長規定を適用したというが、説得力ある説明とはいえず、違法・脱法行為との声も上がる。
検事総長の稲田伸夫氏は今年7月末に、就任して満2年を迎える。近年の総長は2年ほどで交代しており、後任に黒川氏を起用するための措置ではないかとの観測が流れている。
黒川氏は法務省の官房部門に長く籍をおき、官房長や事務次官を歴任。法務行政全般や所管する法律の制定・見直しをめぐり、与野党や裁判所、弁護士会などとの折衝で実績を積んできた。国が関わる訴訟で国側の代理人となるのも法務省で、政権中枢との関係も当然深い。
法務省で政界を含む対外調整に手腕を発揮した後、総長に就任した例は多く、黒川氏の経歴が異色というわけではない。一方で、能力が高くても定年に達すれば後進に道を譲らせるのが法の趣旨であり、今回の扱いが問題視されるゆえんだ。
行政機関の一つでありながら検察は司法権の行使と密接不可分な関係にあり、捜査・公判のゆくえによっては、政権の命運を左右することもある。
率いるのが検事総長だ。組織が独善に陥らず、また政治の利害に流されることのないよう指揮監督する使命を負う。疑念をもたれてはいけないと、歴代政権は法務・検察の意向も勘案しつつ慎重に人事を行うのが常だった。異例の閣議決定は積み重ねた知恵を無にしかねない。
安倍内閣は、一定の独立性を保ちながら政権の暴走をチェックし、歯止めをかけるべき組織の要職に都合の良い人物を起用して政策を進めてきた。7年前の内閣法制局長官の交代が象徴だ。省庁の幹部人事を内閣が差配するシステムも作りあげた。いまや政権にモノを言えない空気が霞が関を覆い、公文書の隠蔽(いんぺい)・改ざんなど深刻なモラルハザードを引き起こしている。
ついに検察も。そんな受け止めが広がり、政治になびく風潮がさらに強まることを、憂う。