検察官勤務延長 政治介入を招く案だ - 東京新聞(2020年4月9日)

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検察庁法の改正案が国会に出されている。検察官の定年を六十五歳に引き上げるが、政権が認めれば定年を超えて勤務できる内容を含む。政治の裁量で検察人事に介入が可能で、強く反対する。
今回の改正案は法曹界などでは「人事上の指揮権発動と同じだ」と言われている。検察官の定年を現行の六十三歳から六十五歳に段階的に引き上げるばかりでなく、内閣か法相が「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めれば、特定人物について定年をも超えて勤務させることが可能になる。これが「勤務延長」である。
つまり政権の意向を検察首脳の人事に反映できる。問題になっている東京高検検事長の定年延長に伴う解釈変更を後付けで法制化する-そんな意味も併せ持つ。
これまで検事総長や高検検事長らの任命権は内閣にあるものの、実際には検事総長の了解した人事案が内閣で追認されてきた。その慣例を破ることになる。
それでは「準司法機関」として検察の政治的中立性や独立性が損なわれるのは明白である。ロッキード事件リクルート事件など政治権力の腐敗にメスを入れてきたのに、政治の側が人事で検察をコントロールできるからである。
個別の事件については法相が検事総長のみを指揮する「指揮権」が検察庁法にある。発動されたのは一九五四年の造船疑獄のときだけだ。だが、人事の面でも政権の意思が検察に及ぶことになれば、常態的に政治の介入を招いているのと同じではないか。
六日には日弁連が「憲法の基本原理である権力分立に反する」などとして、改正案に反対の会長声明を出した。その危機感は法学者ら法曹界などに広がっている。改正案はもちろん、東京高検検事長の定年延長を認めた閣議決定も撤回すべきである。
国会審議では、内閣法制局が法案の原案審査をした昨年十月末から十一月段階では定年を超えた「勤務延長」の規定が存在しなかったことが判明した。むしろ法務省側は「必要ない」とする見解をまとめていた。
それが一転したのは、恐らくその後、東京高検検事長の定年延長が持ち上がったためだろう。少なくとも法相らから納得のいく説明は聞こえてこない。この異様な人事こそ問題の出発点である。これをいったん許せば、今後、改正案どおり政権は常に検察人事を左右できる。民主国家の根本だけに到底、うやむやにできない。