米のイラン司令官殺害 湾岸危機あおる身勝手さ - 毎日新聞(2020年1月7日)

https://mainichi.jp/articles/20200107/ddm/005/070/061000c
http://archive.today/2020.01.07-010324/https://mainichi.jp/articles/20200107/ddm/005/070/061000c

米国のイランへの攻撃や威嚇でペルシャ湾岸情勢が緊迫している。米国は自制し緊張緩和に動くべきだ。
トランプ米政権がイラン精鋭部隊の司令官をイラク無人機攻撃により殺害した。米国人への攻撃を準備していたというのが理由だ。
イランは直ちに軍事的な「報復」を宣言した。核合意の履行も全面的に停止すると発表した。ウラン濃縮を「無制限」に進める方針という。
トランプ大統領はイランが報復攻撃すれば反撃すると威嚇している。危険極まる一触即発の事態である。
一義的な責任は行き当たりばったりの軍事行動をとった米国にある。
トランプ政権は「差し迫った脅威への自衛手段」と攻撃の正当性を強調する。だが、脅威の詳細を明らかにしていない。米議会から法的根拠への疑問が出るのは当然だろう。
今回の攻撃にイラクは「主権侵害」と反発し、議会は米軍撤退を求めた。イラクの承諾なしに武力行使したなら国際法違反の疑いが生じる。
なにより問題は、トランプ氏の短絡的ともみえる意思決定だ。
米メディアによると、攻撃は、昨年末にトランプ氏が、イラクの米大使館を親イランのデモ隊が襲撃する映像を見て激怒し、命じたという。
司令官殺害の選択肢はトランプ氏もいったんは見送っていたため、国防総省は衝撃を受けたとされる。ウクライナ疑惑の弾劾訴追から関心をそらす狙いではとの臆測もある。
中東に3000人規模の米軍を増派する決定や、反撃目標にイランの重要文化施設を含める方針は、むしろ反米感情をあおりかねない。
慎重な判断に基づく戦略的な決定だったのか。疑問が残る。
中東の緊張をこれ以上高めてはならない。米政府は外交的解決に乗り出す必要がある。
イランは冷静に対応すべきだ。ホルムズ海峡を封鎖したり、イスラエルなど米国の同盟国を攻撃したりすれば、中東は大混乱に陥る。
本格的な核開発に突き進めば、米国を批判する中国やロシアもイランから距離を置くだろう。孤立する状態を自らつくるべきではない。
日本は中東で情報収集する護衛艦を予定通り派遣するという。緊張緩和に向けて双方に自制を促す努力こそ最優先にすべきではないか。