海自派遣命令 政略優先がはらむ危うさ - 信濃毎日新聞(2020年1月11日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200111/KT200110ETI090012000.php
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河野太郎防衛相が、海上自衛隊に中東海域への出動を命じた。
P3C哨戒機2機がきょう日本を出発、護衛艦「たかなみ」は2月上旬に出港する。
精鋭部隊司令官の殺害を巡る米国とイランの報復の連鎖はひとまず回避されたものの、対立の火種は消えていない。
情勢の推移を見届けもせず、国民への説明を尽くしていない。命令は拙速で容認できない。
防衛省設置法の「調査・研究」を派遣の根拠とした。「日本関係船舶の安全確保のため情報収集態勢の強化が必要」と、安倍晋三政権は曖昧な目的を掲げる。
非常時は、海上警備行動を発令する。正当防衛や緊急避難で武器を使えるが、保護対象は日本船籍に限られる。国内の海運会社が関わる船舶の10%余にすぎない。日本人が乗船していても外国籍なら進路妨害や警告音といった対応しか取れない。
首相の承認を得て防衛相が発令するまで時間差も生じる。臨機応変の対応を迫られる現場で、海自が戸惑わないか。
日本は、ともに友好関係にある米国とイランの争いのはざまに立たされた。海自派遣は、有志連合の結成を呼びかけたトランプ米大統領の顔を立てるためにひねり出した苦肉の策だ。
イラン付近を除いたとはいえ、海自の活動海域は有志連合の行動範囲と重なる。安倍政権は連合司令部に要員を送り、連携を図るとする。日本独自の派遣―との言い分が、国家の統制を離れた武装勢力に通じるとは思えない。
首相はきょうから、サウジアラビアアラブ首長国連邦オマーンを訪問する。海自派遣への理解を求め、中東の安定に向けた外交努力を促すという。
米国とイランの確執の根は核合意にある。トランプ氏は8日の演説で、イランへの反撃こそ自重したけれど、核合意の不当性を一方的に主張し、対イランの経済制裁をさらに強化している。
無制限のウラン濃縮を宣言したイランで核兵器開発が現実味を帯びれば、中東での武力衝突の危機は再燃する。
安倍政権が「仲介役」を自任するなら、核合意の当事国に要人を派遣し、話し合いの機会をつくることに尽力すべきだろう。司令官殺害の具体的な根拠を明らかにしない米政権に意見すらできないのでは、信頼は得られまい。
哨戒機部隊は60人で構成し、護衛艦には200人が乗る。隊員の安否が気遣われる。