ローマ教皇来日 文明への危機感共有を - 東京新聞(2019年11月23日)

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ローマ教皇フランシスコが来日し、被爆地の長崎、広島を訪問。東日本大震災の被災者らとも会う。核廃絶や環境問題について訴え続ける旅。原動力は、核を生み出した文明への強い危機感だ。
カトリック信者は日本では人口の0・3%だが、世界では約十三億人に上る。トップである教皇の影響力は大きい。教皇の来日はヨハネ・パウロ二世以来、三十八年ぶりとなる。
南米アルゼンチン出身のフランシスコ教皇は二〇一三年に就任。米国とキューバとの国交正常化を仲介、欧州を目指す難民らが滞在するギリシャの島を訪れるなど、行動力に富む。宗派は違うプロテスタントメルケル・ドイツ首相も「教皇の視点は示唆に富む」と親近感を表明している。
教皇が、従来より踏み込んで取り組んでいるのが核廃絶だ。
「戦争がもたらすもの」とのメッセージとともに、長崎への原爆投下で亡くなった弟を背負い、火葬を待つ「焼き場に立つ少年」とされる写真カードを、世界中の教会に配るよう命じた。「広島や長崎から人類は何も学んでいない」という言葉からは、怒気すら感じられる。教皇が元首を務めるバチカン市国は、核兵器禁止条約をいち早く批准した。
近年、世界の動きは教皇の思いに逆行する。トランプ米政権は米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄、米ロは再び核開発を競いだした。米国はイラン核合意からも離脱、中東にも核拡散の恐れがある。米国の「核の傘」に依存する日本は核兵器禁止条約に参加していない。
被爆地からの教皇のメッセージも後押しに、被爆国として核廃絶に向けより積極的に動きたい。
核廃絶への願いは、環境問題全般への関心に基づく。
教皇が一五年に出した回勅(公的書簡)は、地球が、使い捨て廃棄物、大気や水の汚染、温暖化などで壊され、弱い人々を直撃していると警告する。核エネルギーが、知識や経済力を持つ少数の人に支配される恐ろしさも指摘する。東京で開くミサには東日本大震災の被災者らも招かれている。原発についての教皇の発言にも注目したい。
教皇の訪問で修学旅行の広島平和記念資料館見学が中止になりかけた高校生らが、教皇との集いに招待される粋な計らいもあったという。日本にはまだ縁遠いカトリックだが、気さくと伝えられる教皇の人柄を知るのも楽しみだ。