ハンセン病補償 家族の被害 欠かせぬ検証 - 信濃毎日新聞(2019年10月26日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191026/KT191025ETI090017000.php
http://web.archive.org/web/20191026021026/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191026/KT191025ETI090017000.php

顧みられてこなかった被害の回復に道筋をつける大きな一歩である。ハンセン病患者の家族に対する補償法案の骨子を与野党の国会議員グループがまとめた。来月にも成立する見通しだ。
家族による集団訴訟で国に賠償を命じた熊本地裁の判決より対象を広げ、補償額も最大で一人180万円に増額した。判決の確定から時間を置かず、原告側と協議を重ねて補償制度の枠組みを固めたことも評価したい。
ただし、金銭で補償をすれば、政府、国会が責任を果たし終えるわけではない。根深い差別や偏見をどう根絶していくか。具体的な取り組みが問われる。
法案は前文に、国会と政府を主語に反省とおわびの文言を記し、国の責任を明確にする。さらに、ハンセン病問題基本法を改正して家族も被害者と位置づける。
ようやくここまで来た―。原告の家族は感慨を口にしつつ、表情には複雑な胸中がのぞいた。補償額を受け入れはしたが、生涯にわたる差別被害に見合う額とは言いがたい。原告団の代表は「合点する人はいない」と述べている。
患者を強制隔離する政策は戦後も半世紀余りにわたって続いた。地裁判決は、それによって患者と家族が差別にさらされる「社会構造」が形づくられたとして、国の責任を認定した。
隔離政策を違憲とする熊本地裁判決が2001年に確定し、政府は元患者には補償をしてきた。一方で、今回の判決を政治判断で受け入れるまで家族の被害に目を向けてはこなかった。就学・就労の拒否や結婚差別をはじめ、家族が受けた被害の実態を検証することは政府の責務である。
家族訴訟の原告で実名を明かした人はごくわずかだ。背後には、いまだに声を上げられない多くの家族がいる。それが1996年のらい予防法の廃止から20年余を経ての社会の現実である。
補償制度ができても、名乗り出るのをためらう人は少なくないだろう。置き去りにしないための手だてが欠かせない。
政府、国会だけではない。患者、家族を差別し、排除した責任は自治体と住民にもある。患者を療養所に送る「無らい県運動」は官民一体で進められた。隔離政策が続いた背景には、大多数の人の無関心や暗黙の了解があった。
過ちを直視しなければ差別意識を克服することはできない。ハンセン病の歴史と現在にそれぞれが向き合い、家族の被害回復を支える力にしたい。