ハンセン病談話 決断の行方見極めねば - 信濃毎日新聞(2019年7月13日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190713/KT190712ETI090007000.php
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極めて異例の判断ではあるが、あえて控訴しない。深く反省し、心からおわびする―。2001年に小泉純一郎首相が出した談話をなぞったかのような言葉が目についた。
ハンセン病の家族訴訟について控訴を見送った安倍晋三首相の談話である。同時に出した政府声明では熊本地裁の判決に対し、「国家賠償法民法の解釈の根幹に関わる法律上の問題点がある」と指摘した。その文言も同じだ。
小泉談話は、強制隔離政策を違憲と認定して元患者への賠償を命じた地裁判決に、控訴断念を政治決断した際のものだ。解決の道筋に言及し、判決の認定額を基準にした補償立法や、元患者との協議に取り組むと表明した。
今回の談話はこの点で異なる。訴訟に参加していない人も含め補償措置を講ずるとしたが、立法には触れていない。補償の具体的な方針は示さず、早急に検討すると述べるにとどめた。
小泉氏は原告の元患者らと面会した上で控訴の見送りを決めた。安倍首相は原告と会っていない。談話で、近く面会して謝罪を直接伝える意向を示した。
家族訴訟の地裁判決は、隔離政策が患者本人だけでなく家族への差別被害にも結びついたとして国の責任を明確に認めた。政府が法解釈をめぐって異議を示しつつも、判決を受け入れ、公式に謝罪した意味は大きい。
ただ、これはようやく踏み出した一歩だ。参院選の期間中に政治決断をことさら演出してみせたのかどうか。今後の取り組みに目を凝らす必要がある。
補償制度の具体化にあたっては難しい問題を避けて通れない。一つは、対象とする家族の範囲だ。元患者の配偶者や子、兄弟姉妹のほか、おいやめい、孫らも含めるか。被害の実情を踏まえた丁寧な判断が欠かせない。
補償額の基準も検討が要る。判決は、元患者との続き柄に応じて一人33万〜143万円の賠償を命じた。就学や就職の拒否、結婚差別といった生涯にわたる深刻な被害に見合う額とは思えない。この認定を基準にすべきでない。
原告側からは、補償のあり方について政府に協議の場を求める声が出ている。当事者と話し合いを重ね、被害の回復に道筋をつけていくことが何より重要だ。
差別や偏見は根強く残り、なお声を上げられない家族は多い。置き去りにされてきた被害の実態を調査、検証することも、判決を受け入れた政府の責務である。