週のはじめに考える 先住民族差別に決別を - 東京新聞(2019年10月6日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019100602000190.html
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日本国民だが、日本人ではない-。国籍取得した人以外にも日本にはそう答える人たちがいます。「先住民族」。差別を受忍している人たちでもあります。
東京・上野の国立科学博物館。日本の成り立ちを探る日本館に、精巧なろう人形で石器時代から江戸期までの日本人の暮らしを再現するコーナーがあります。その最初、約二万年前の狩猟採集民族として登場するのが、沖縄の港川(みなとがわ)人です。五十年ほど前、沖縄県八重瀬町で見つかった国内最古級の全身骨格が有名で、同博物館にも複製が展示されています。

◆「港川人」は日本人?
ただ、沖縄には港川人を日本人(日本民族)の祖先のように扱われるのに疑問を抱く人がいます。
「明治の琉球併合(処分)まで琉球は日本とは異なる国として歩んできた。遺伝学的にはともかく港川人は『琉球人』の祖先だ」
沖縄出身の松島泰勝龍谷大教授は強調します。沖縄では十五世紀、琉球王国が誕生。中国と朝貢関係を結び江戸期には島津藩の一定の支配を受けたとはいえ一八五〇年代には、米国、フランス、オランダと修好条約を締結。国際法上は紛れもない主権国家でした。
一八七九年、軍と警察が王府・首里城を囲んでの併合以降、日本政府は琉球の歴史、文化、言語を排除して「皇民」とする同化政策を進めました。一方で二十年以上にわたり国政選挙権は認めず、一九〇三年の内国勧業博覧会では「学術人類館」に沖縄の女性らを民族衣装姿で“展示”するなど、同胞と異民族扱いを使い分ける二重構造下に置きました。
民族的な差別は、今もはっきりとした形で続いています。
約九十年前、京都帝大(現・京大)の人類学者が沖縄県今帰仁村(なきじんそん)にある中世の豪族の墓から子孫らに無断で遺骨を持ち出しました。

◆権利の規定なし
日本民族との差異を調べるためです。遺骨は慰霊もされず、現在まで京大が保管。二年前、沖縄の地元紙の報道で事実が明らかになるや県民らの返還運動が起きますが、大学は一切話し合いに応じず県民らの有志は昨年末、訴訟に踏み切りました。大学は研究目的の収集に違法性はなかったと主張し争いは続いています。七月には日本人類学会が京大に不返還の方針を堅持するよう要望書を出し、原告側は猛反発しています。
外来の侵略者や植民者が、先祖伝来の土地に住む人たちの権利を奪い差別する-。植民地主義の反省を踏まえて国連は二〇〇七年、先住民族の権利に関する宣言を採択。先住民族にもあらゆる人権や自己決定権が保障されると明記しました。遺骨返還の権利や、先住民族の土地での合意のない軍事活動禁止も盛り込まれています。
宣言には先住民族の定義はありませんが、植民地化の被害者との意味では世界七十カ国以上に三億七千万人いるとされます。国連は日本ではアイヌ民族と沖縄の人々を先住民族と認め、〇八年以降、その権利を保障するよう日本政府に勧告を繰り返しています。
一方、政府は先住民族アイヌだけとの立場で、宣言に賛成したにもかかわらず沖縄については勧告の撤回や修正を求めています。
では、アイヌ民族の権利は十分に守られているかとなると、さにあらず。アイヌも明治政府によって住んでいた大地を無理やり日本領に編入され、長く差別と闘ってきました。遺骨収奪にも遭いました。ようやく、条文に「先住民族」と記されたアイヌ施策推進法がことし五月に施行されましたが、権利の規定はありません。
先月、北海道紋別市アイヌの男性が、先住民族の権利だと訴えて道の許可を得ずに儀式用のサケを捕獲し、道警の調べを受けたのは象徴的です。先住民族問題に詳しい上村英明恵泉女学園大教授は「権利も、謝罪を含む歴史検証もない新法は国際水準の人権法になっていない」と批判しています。
沖縄には「県民は日本人」として政府同様、国連勧告の撤回を求めている自治体があります。先住民族と名乗ることで、新たに差別を受けると考える人もいます。

◆同化と異化のはざまで
しかし、政府や本土側住民が沖縄やアイヌの人々にしているのは国連宣言に背く行為そのものではないでしょうか。本土での理解が得られないから沖縄で我慢を-。辺野古基地問題も、そんな構造の一環にあると言えましょう。
沖縄には、国連の先住民族関連会合に毎年参加し、国際社会に現状を訴える若者らがいます。その一人、沖縄大非常勤講師親川志奈子さんは「同化と異化のはざまで何百年も差別を受けてきた沖縄。差別されていると声を上げるのは辛(つら)いが、沈黙では状況は変わらない」と話します。私たちは、その声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきです。