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県内公立図書館で個人情報を巡り危うい運用実態のあることが明らかになった。
警察の捜査関係事項照会などに応じて図書館が利用者の情報を提供していた。提供が判明したのは那覇市立中央図書館と名護市立中央図書館の2館。糸満市立中央図書館は少年法に基づき調査関係事項照会に応じていた。
那覇は特定日の、ある時間帯の貸出者、返却者の氏名や住所、生年月日を提供し、名護は特定人物の図書カードについて有効か否かの照会に応じたという。糸満は特定人物の利用カードの有無や貸出冊数を提供した。
日本図書館協会は「図書館の自由に関する宣言」の中で利用者の読書事実は強制力を伴う令状を確認したとき以外は外部に漏らさないことを原則とする。読書記録以外の利用事実に関しても利用者のプライバシーを侵さないとしている。
その上で捜査関係事項照会に応じる場合として、その余裕がなく、他に代替方法がなく、人の生命、財産等の危険が明白に認められる―を挙げる。
県内公立図書館のケースは、この規定に合致していたのだろうか。捜査機関の求めに応じて、安易に情報を提供したきらいはないか。疑問は拭えない。
捜査関係事項照会は刑事訴訟法に規定される。捜査に際して公務所や公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができると定める。
しかし報告するか否かは照会を受ける側の任意によることを確認しておきたい。
利用者が知らないうちに警察などへ自身の情報が提供されていたとすれば、それを知った上で利用する人はどれほどいるだろうか。
国民の知る自由を保障する機関である図書館に対する不信を生みかねない。知る権利を含む表現の自由をも萎縮させる恐れがある。提供により失う利益が大きいことを自覚すべきだ。
県内公立図書館では、思想・信条の自由にも関わる書籍名などの読書記録は提供していないという。氏名や性別、住所、生年月日など個人を識別する単純な情報の提供が主で必ずしも秘匿性が高いとは言えないとの指摘もある。
しかし最高裁は、ある講演会参加者の単純情報の警察提供も法的な保護の対象になるとの判断を示した。「他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきもの」と判示している。
図書館には利用者の内心の自由に関わる機微な情報が多く集積される。それだけに他官庁以上に、厳密な守秘義務があると再認識してほしい。
任意の照会に安易に応じれば、いずれ恒常化し、提供情報の範囲が際限なく拡大しかねない。図書館の自由宣言に立ち返り、令状がなければ提供しないという原則を徹底すべきである。