皇位継承の儀式 憲法に沿っているのか - 信濃毎日新聞(2019年5月2日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190502/KT190501ETI090009000.php
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天皇陛下がきのう、即位後、初の儀式となる「剣璽(けんじ)等承継の儀」に臨まれた。
皇室のしるしとされる三種の神器のうち、剣と璽(じ)(勾玉(まがたま))を引き継ぐ儀式である。

三種の神器は神話上、皇室の祖とされる天照大神(あまてらすおおみかみ)から授かったと伝えられる。皇室の正統性を示す重要な儀式という位置付けだ。
この儀式を政府が国事行為としていることには批判が根強い。
政府は三種の神器を「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」とする。宗教的意義を有せず、憲法が定める政教分離の原則に違反しないという見解だ。
これには無理がある。三種の神器が神話上の世界観である以上、宗教性は否定できない。
儀式の位置付けからも、国事行為とするのは疑問だ。憲法では、天皇の地位は「主権の存する国民の総意に基づく」と規定されている。皇室の正統性や継承の根拠に三種の神器を持ち出すのは、憲法の規定や精神と合わない。
出席できる皇族は成年男性に限定された。秋篠宮さまと常陸宮さまの2人だけだ。
男女平等は憲法で保障される。国事行為とするのなら憲法の趣旨に合わせるのが当然だ。男性皇族しか出席できない儀式では、国際的な理解も得られまい。
政府の検討段階では、有識者から異論もあった。それなのに政府は前例踏襲として押し切った。
皇位継承権のない女性皇族の参列を認めると、女性・女系天皇女性宮家創設などの議論が再燃すると懸念したとみられる。安倍晋三首相はこれらに否定的だ。支持基盤である保守層が反対している影響もあろう。
皇族減少の対策は喫緊の課題で、男女同権の観点からも検証が必要だ。承継の儀は議論のきっかけになったはずだ。
皇位継承に関係した国事行為の儀式は今後も続く。10月には即位の礼の中心的儀式となる「即位礼正殿の儀」が行われる。高さ1メートル以上の玉座から陛下が首相らを見下ろす。国民主権の観点から疑問が出ている。
11月の大嘗祭(だいじょうさい)も懸念がある。国事行為には位置付けないものの、費用を国費で支出するのは政教分離に違反する可能性がある。
政府はいずれも前回踏襲を決めている。十分に検証せず、国民に意見も聞いていない。これでは問題の先送りにすぎない。
政府は、皇室が時代に合わなくなれば国民の支持が離れていくことを忘れてはならない。