社会の多様性 「個人の尊重」軸に議論を - 信濃毎日新聞(2019年7月18日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190718/KT190717ETI090011000.php
http://archive.today/2019.07.20-003335/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190718/KT190717ETI090011000.php

夫婦別姓の選択や同性婚を認めるか。多くの政党が明確な主張を掲げたことは、今回の参院選の特徴だろう。家族の多様なあり方、性的少数者(LGBT)の権利の保障に関わって、目を向けるべき重要な論点である。
別姓を選択できる制度は、1996年に法制審議会が導入を提言してから既に20年以上、たなざらしになっている。自民党などの保守系議員に「家族制度を壊す」といった反対論が強いからだ。
今回の公約でも各党の姿勢は分かれる。立憲民主、国民民主、共産、社民の野党各党が選択制の導入や実現を明記したのに対し、自民党は「旧姓の幅広い使用を認める」とするにとどまる。
夫婦の同姓を定めた民法について最高裁は2015年の判決で合憲としつつ、国会に判断を委ねた。けれども国会の議論は低調だ。野党が出した民法改正案の審議に自民党は応じていない。
参院選の公示前日の党首討論会で、選択制への賛否を挙手で問われ、安倍晋三首相だけが手を挙げなかった。「政治はイエスかノーかではない。印象操作はやめた方がいい」とかみついている。
海外では別姓を選ぶことがごく当たり前だ。それが家族を壊しているとは思えない。日本の世論調査でも選択制に賛成する意見が反対を上回るようになった。自民党内にも導入に前向きな議員はいる。参院選をあらためて議論を深める機会にしたい。
同性婚は、立憲民主、共産、社民の各党が実現を掲げた。併せて、性的少数者への「差別を解消、禁止」する法律の制定を目指す。日本維新の会同性婚を認めると公約に明記した。
一方、与党の自民、公明は、性的少数者への「理解を増進」する法律を制定するという。自民党内からは「LGBTばかりになったら国はつぶれる」といった発言がいまだに出る。同性婚を議論する状況には遠いようだ。
世界では欧州を中心に20カ国以上が同性婚を認めている。アジアでも台湾が法制化した。結婚は異性を愛する人だけの権利ではないはずだ。日本でも、法の下の平等に反し、婚姻の自由を侵害するとして各地で裁判が起きている。
別姓の選択も、同性婚も、個の尊厳や人格に関わる。憲法が根幹に置く「個人の尊重」をどう確かなものにしていくか。各党、候補の主張を見極めたい。