参院選 個人の尊重 多様な生き方に道を - 朝日新聞(2019年7月19日)

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「誰もが活躍できる」「個人の可能性が芽吹く」
各党の参院選の公約には美しい言葉が並ぶ。だが、どこまで内実を伴うものだろうか。
象徴的な光景があった。
公示前日に日本記者クラブで開かれた7党首討論会での出来事だ。記者が選択的夫婦別姓制度への賛否を問うたところ、安倍首相だけが手を挙げず、「政治はイエスかノーかではない」「印象操作はやめよ」などとムキになって抗弁した。
首相が嫌がったのも無理はない。内閣府が昨年公表した世論調査では、賛成が42・5%で過去最高となった。59歳以下では各年代とも5割前後を占める。制度導入を求める請願などを採択した地方議会はこの3年ほどで40を超え、先月、東京都議会でも採択された。だが自民党はひとり反対に回り、国会でも、野党6党派が昨年6月に提出した民法改正案の審議に応じず、たなざらしにしている。
社会の変化を受け止められず「議論をしない」政党――。そう見られるのを避けたいための抗弁だったのだろう。
これまでテレビ討論などでテーマが別姓論議に及ぶと、首相は話を女性の活躍や経済成長にすり替えてきた。「安倍政権下で女性の就業率は上がった」と自慢し、公的な書類や職場などでの旧姓使用の拡大に取り組む姿勢をアピールする。
考え違いと言うほかない。
氏名は、結婚後も仕事を続けたり、金を稼いで国を豊かにしたりするための道具ではない。その人をその人たらしめる重要な要素であり、日本国憲法の根幹をなす「個人の尊重・尊厳」と密接にかかわる。党派を問わず、この本質を理解しない政党や政治家が公約に美辞麗句を連ねても説得力を欠く。
同様のことは同性婚についてもいえる。最近の各種調査では、同性同士の結婚を法的に認める考えに賛成する人が反対を上回る例が目立つ。独自の同性パートナーシップ制度をもつ自治体は、15年の東京都渋谷区を皮切りに20以上に広がった。今月には都道府県として初めて茨城県が同制度を設けたが、ここでも自民党は「時期尚早」との提言書を出している。
夫婦別姓同性婚の制度に共通するのは、それを望む人たちのために選択肢を増やそうという考え方だ。そうでない人にまで強制したり、新たな規範を設けたりするものではない。
一人ひとりが個人として尊ばれ、理不尽な差別を受けない。それは、多数派か少数派かにかかわらず、だれもが暮らしやすい社会であることを意味する。そんな社会を実現するために、選挙は有効な手段である。