[大弦小弦]「日本人お断り」の副産物 - 沖縄タイムス(2019年7月15日)

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「お客さまは神様です」と言った時、歌手の三波春夫さんは絶対服従を誓ったのではなかった。生前、「敬虔(けいけん)な心で神に手を合わせたときと同様に、心を昇華しなければ真実の藝(げい)は出来(でき)ない」と記している。客の魂に働き掛ける歌を理想とした

石垣市のラーメン店主が「お客さまは神様なのか。金を払えばいいというのはおかしい」と訴えている。マナー悪化を理由に今月から「日本人お断り」とした

▼店と客の契約は、対価と引き換えにサービスを提供するところまで。客だとしても、やりたい放題の権利はもちろんない。人対人だから「ありがとう」と言われたら「ごちそうさま」と返す敬意があるともっと良い

▼一方で、店が客の国籍によって線を引くのは合理的ではないし同意もできない。日本人にも外国人にも当然いろんな人がいる。「1人1杯注文」と決め、守らない人を断るならまだしも

▼かつて本土に「朝鮮人琉球人お断り」という貼り紙があった。部屋を借りる場面など、戦後もまかり通った。弱者に牙をむく差別は今も形を変えて残っている

▼社会の強者である日本人の店主が、同じ日本人の客を排除する今回の例は性格が違う。ただ、店頭で立ちすくむ客は、差別を疑似体験するだろう。差別の不条理を当事者として考える人が増えれば、思わぬ副産物になる。(阿部岳)