虐待対策関連法が成立 執行できる体制が必要だ - 毎日新聞(2019年6月21日)

https://mainichi.jp/articles/20190621/ddm/005/070/056000c
http://archive.today/2019.06.21-001432/https://mainichi.jp/articles/20190621/ddm/005/070/056000c

親の体罰禁止を明記し、児童相談所(児相)の機能強化を求める改正児童虐待対策関連法が成立した。
児相に対して医師と保健師の配置を義務化し、子どもを保護する「介入」と「保護者支援」を行う職員を分けること、配偶者暴力相談支援センターとの連携強化などを盛り込んだ。いずれも重要な改革である。
ただ、これまでも法改正の度に児相の強化が図られてきたが、児相が関わりながら子どもを救えない悲劇は繰り返されてきた。今回の法案審議の間にも札幌市で女児が衰弱死する事件が起きた。
虐待件数の激増ぶりに職員増が追いつかないこと、経験の浅い職員が多いために機能を強化してもそれを執行できる体制になっていないことなどが原因だ。
むしろ、役割が重くなり、仕事が増えることで現場の職員が押しつぶされている。そうした状況を変えなければならない。
今回の改正では野党の対案を受けて、虐待した親に再発防止のための指導をすることが盛り込まれた。重要なことには違いないが、虐待した親と面接をするだけでも苦労しているのが実情だ。今の児相に医学や心理学的な指導を実施して親を改善するだけの余力があるだろうか。
米国では、親の改善指導は司法の権威を背景に裁判所が担っている。日本の児相のように子どもに関するさまざまな仕事を一手に担っている機関は諸外国には見られない。
児相の仕事を他機関に分散することも考えるべきではないか。
虐待通告から48時間以内に子どもの安全を確認するルールが2007年に導入された。必ずしも緊急性が高くないと思われる通告でも対応しなければならない。これが現場職員を疲弊させている一因といわれる。
大阪府では虐待リスクが低いと判定した事案についてはNPO法人に安全確認を委託している。夜間休日の相談対応や里親支援などを民間に委託している児相もある。
児相を本当に重要な案件に集中させるために、民間との役割分担を進めるのは現実的な方策だろう。
今回の法改正では24もの付帯決議が採択された。子どもを救うため児相に期待をかけるのはわかるが、それができる体制づくりこそ必要だ。