[虐待防止法改正案]体罰を根絶する一歩に - 沖縄タイムス(2019年3月22日)

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政府は、児童虐待防止法児童福祉法の改正案を閣議決定、国会に提出した。今国会での成立と、原則来年4月1日の施行を目指す。
改正案で、親による子どもへの体罰禁止を明記したことは前進だ。しつけを理由にした暴力は決してあってはならないという意識の醸成に役立つ。
体罰禁止に罰則はない。しかし親だけでなく、そのほかの家族や親族、教育機関や行政機関など子どもにかかわるあらゆる人々が「体罰はしつけではない」という共通認識を持つことが虐待の抑止効果を生む。
もともと日本は体罰に寛容な国とされている。非政府組織(NGO)「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の2017年意識調査によると、しつけのための体罰について「積極的にすべきだ」とした人は1・2%、「必要に応じて」16・3%、「他に手段がないと思った時のみ」39・3%で約6割が容認した。すでに体罰を法律で禁止しているスウェーデンの1割に比べて圧倒的に多い。
体罰を容認する考えこそが、家庭への介入をためらう原因となり、子どもたちの命を危険にさらしている。
民法が規定する親の子どもに対する懲戒権の扱いは、改正法の施行後2年をめどに検討することになる。今後は民法改正へつながる具体的な取り組みが必要だ。
改正案は、児童相談所で、一時保護など家庭への介入対応をする職員と、保護者を支援する職員に分けることも定める。
児相が保護者との関係性を重視するあまり、子どもの命を救えなかったケースが頻発しているためである。

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ただ、職員の機能を分けるだけでは十分とは言えない。介入が遅れたり、判断を誤ったりする根本には児相職員の多忙さがある。職員1人あたりの事案が数十件に上るという現状の改善が急がれる。
そのため改正案は、中核市と東京23区が児相を設置できるよう国による施設整備や人材育成支援を掲げている。
沖縄県も、中核市那覇市で児相が設置されれば、同市を管轄する県中央児相の負担を振り分けられるとして、市と相談・調整する考えを示した。児相の増加は、児相職員の増加につながる。前向きに進めてほしい。
一方、中核市では06年度から児相の設置が可能だが、この間、整備が進んでいない現状もある。改正案の理念を実現するには、政府の財政的・人的バックアップが欠かせない。

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改正案は、ドメスティックバイオレンス(DV)対応機関との連携強化もうたう。家庭内での暴力を目撃することは児童虐待そのものであり、その暴力が児童に及ぶ危険性も常にはらんでいる。
弱い立場の者を、力や言葉、態度で従わせるDVは「暴力による支配」だ。
家庭という密室で起こる支配構造を察知するのは容易ではない。DVと虐待は同時に起こるという視点を、地域の誰もが持ち得ることが重要だ。