(余録) 東京・永田町の憲政記念館の近くには… - 毎日新聞(2019年6月19日)

https://mainichi.jp/articles/20190619/ddm/001/070/112000c
http://archive.today/2019.06.19-001803/https://mainichi.jp/articles/20190619/ddm/001/070/112000c

東京・永田町の憲政記念館の近くには石造りの建物に入った日本水準原点がある。日本の高さの測量の基準点で、東京湾の平均海面からの標高は東日本大震災のあった2011年以降、24・3900メートルである。
ここに原点が置かれたのは、かつてこの地に陸軍陸地測量部があったからだ。「兵要地誌(へいようちし)」は軍事地理学の当時の呼び名で、戦前の測量と地図データ作製は陸軍の専管事項だった。今の国土地理院に引き継がれたのは敗戦の後である。
さて今回、防衛省が作成した報告書の山の標高が国土地理院の地図と3メートル違っていたのは、現代の「兵要地誌」の典拠がおなじみのグーグルアースだったからである。もちろん「イージス・アショア」の配備適地をめぐる騒動である。
秋田県の新屋(あらや)演習場を唯一の適地とした同報告では、やはりグーグルアースの距離と高さの縮尺が違うのに気づかぬまま他の候補地の地形を不適と判定していた。まあ小学生の夏休みの自由研究で先生に注意される水準の誤りだろう。
もともと山口県のむつみ演習場とともに突然の閣議決定で配備が決まり、「地元軽視」への不満がくすぶっていた住民である。「適地」の説明がでたらめのうえ、その釈明の場で居眠りされては不満が憤激に変わったのも成りゆきだ。
防衛省への不信は山口県にも飛び火し、参院選を前に与党もあわて出した。グーグル頼りの「兵要地誌」をこととする人たちに何千億円もの装備調達をまかせてよいのか。軽視されたのは「地元」だけでない。