引きこもり 家族で抱え込まぬために - 信濃毎日新聞(2019年6月5日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190605/KT190604ETI090011000.php
http://archive.today/2019.06.06-000458/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190605/KT190604ETI090011000.php

家族を孤立に追い込んではいないか。社会全体で考えていかねばならない。
引きこもりの問題である。川崎市で起きた小学生ら20人殺傷事件を機に、関心が高まっている。
東京都練馬区で、76歳の父親が引きこもりがちの44歳の長男を刺殺する事件が起きた。父親は「長男が人に危害を加えるかもしれないとも思った」との趣旨の供述をしている。川崎の事件が引き金になった可能性がある。
一家の苦悩に気づいていた近隣住民は見当たらず、警察や区役所に相談は寄せられていなかったという。家族で抱え込んだまま深刻化した様子がうかがえる。
受け皿となる公的な相談窓口は十分に機能しているか。家族会などの支援団体と行政機関が連携する仕組みはできているか。見直していく必要がある。
川崎の殺傷事件は、発生から1週間が過ぎた。登校中の児童らを次々に襲った後で自殺した51歳の男が、長期間就労せず引きこもり傾向だったことが報じられた。動機は分かっていない。
引きこもりの当事者や家族会からは、犯罪と引きこもりが結び付いて見られることを懸念する声が上がっている。引きこもりの人は一人一人事情が違う。職場や学校でのつらい経験が原因になった人も多い。ひとくくりに危険視するような偏見は許されない。
事件後、家族からは「社会の目が一層冷たくなり、引きこもりの子どもがいることを打ち明けづらくなった」との声も聞かれる。ゆがんだイメージが広まれば解決は遠のく。深刻化を防ぐには支援団体の介入が有効だ。相談に踏み出せる環境づくりが欠かせない。
引きこもりはこれまで、主に不登校などをきっかけにした若者の問題と考えられてきた。政府は今年、40〜64歳で全国に61万人いるとする推計結果を初めてまとめた。若年層(15〜39歳)を上回る規模となった。中高年の問題として、正面から向き合わねばならない状況になっている。
中高年が引きこもりになったきっかけで最も多いのは退職だ。特に30代半ばから40代半ばの世代は就職氷河期に社会に出て不安定な雇用に置かれ、将来を見通せない日々を送った人が多い。
政府は、この世代を対象に集中的な就労支援策を打ち出した。将来の社会保障費膨張を防ぐ狙いがある。だが無理に就職を促してもよい方向には進まないだろう。本人や家族の視点に立った支援策を追求しなくてはならない。