斜面「ひきこもり新聞」 - 信濃毎日新聞(2019年5月31日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190531/KT190530ETI090011000.php
http://archive.today/2019.05.31-021817/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190531/KT190530ETI090011000.php

部屋のドアを蹴破り無理やり外に連れ出す。それを引きこもり支援と呼ぶテレビ番組を見て木村ナオヒロさんは痛感した。当事者の声を社会に届けるメディアがなければ、と。2016年、仲間とともに「ひきこもり新聞」を創刊した

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編集長を務める木村さんも、過去10年近く引きこもった。紙面の中心は当事者の手記だ。17年5月号の特集は「働くまでのハードル」。証言は痛々しい。<労働は見えない戸籍のように作用し、働いていなければ下等市民のような存在にされてしまう>

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「働かざるもの食うべからず」という世間の視線は冷たい。すさまじい圧力になってのしかかってくる。「働きたくない」のではなく「働けない」のだ―。そんな引きこもりの人たちの声が聞こえているのだろうか。厚生労働省が打ち出した就職氷河期世代への集中支援策である

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30代半ばから40代半ばのこの世代は、仕事の最初のつまずきから自信を失い社会との関係も途切れた人が少なくない。支援策は3年間と期限を定め都道府県ごとに数値目標も設ける。引きこもりの人たちを無理やり労働市場に引っ張り出す心配はないか

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40〜64歳の引きこもりは推計61万人。15〜39歳を加え百万人超との見方もある。人手不足の昨今は労働力として注目されている。雇用が安定し年老いても生活が困窮しないようにするといえば誰も反対できないが、人手不足の分野の穴埋めに都合よく利用するなら体のいい動員ではないか。