イタリア新政権 問題提起と受け止めよ - 東京新聞(2018年6月9日)

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イタリア新政権がポピュリズムを鮮明にしている。行き過ぎは禁物だが、耳を傾けるべき主張もある。自国第一主義を強める米国から欧州が自立するためにも、協調と結束の道を探りたい。
コンテ新首相は議会演説で、国民の求めに応じるのがポピュリズム大衆迎合)なら、「われわれはそうだ」と述べた。
三月の総選挙で過半数を獲得した勢力はなく、新政権は第一党となった新興政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」による連立だ。五つ星運動はコメディアンが設立し、草の根運動的な活動を繰り広げてきた。同盟は北部の税金が貧しい南部で使われているとの不満から結成された。両党の支持基盤は異なるが、結び付けたのは欧州連合(EU)への懐疑的な姿勢だ。
イタリアでは南北間をはじめとする格差が拡大し、EU統計局によると、若者(十五〜二十四歳)の失業率は30%以上とドイツの五倍以上に悪化している。難民移民の流入で不満は高まり、EUやドイツが憎しみの標的になった。
新政権は大型減税や所得保障などを掲げる。財源は明らかではなく、イタリアの国債利回りは上昇している。ばらまき的な政策が金融不安を広げないか心配だ。
ただ、ポピュリズムとしてのみ切り捨てられない面もある。
難民は最初に上陸した国で難民申請すべきだ、とのEUの規則見直しを訴えている。
イタリアを経由して欧州に来た難民は二〇一四年以降約六十万人以上。EUは加盟国に受け入れ分担を求めているが目標通り実現できず、イタリアの不法移民は約五十万人に上るとみられる。EUや他の加盟国に、人ごとのような冷淡な意識はなかったか。
EUは内憂外患に直面している。英国の離脱決定に続き、ハンガリーポーランドなど東欧諸国では強権政治が横行し、人権などの価値観を脅かしている。
トランプ米政権は、欧州の安全保障にも直結するイラン核合意からの離脱を表明、鉄鋼とアルミニウムに高関税をかける輸入制限をEUにも適用するとし、欧州との対立姿勢を際立たせる。
米国離れを強いられている欧州には、これまで以上の結束が求められている。EU第三の経済大国イタリアの協力は欠かせない。
新政権にはEU離脱の意思まではなさそうだ。ドイツ、フランスと手を組み、より民意をくんだEUづくりを進めてほしい。