与那国陸自に火薬庫 住民へ説明責任を果たせ - 琉球新報(2019年5月29日)

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「隠す意図はなかった」と言われてもにわかには信じられない。貯蔵庫と火薬庫。その意味するところは、一般人の価値尺度からしても別物だろう。
与那国島陸上自衛隊沿岸監視隊配備に際し、駐屯地内に整備する弾薬保管の「火薬庫」を「貯蔵庫」と示していたことが明らかになった。防衛省の担当者は、本紙の取材に「任務に必要な弾薬を持つのは当然」とする。ならばなぜ「火薬庫」と表記しなかったのか。住民の「知る権利」に誠実に向き合わず、なおざりにする体質は危険な兆候と言わざるを得ない。
今年3月に宮古島市に新設された陸上自衛隊宮古島駐屯地についても住民に対し十分な説明がなされないまま施設整備が進められていた。ミサイルは配備しないと説明していた「保管庫」に中距離多目的ミサイルの弾薬などが持ち込まれていた。駐屯地で保管するのは小銃や発煙筒と説明していたというから開いた口が塞がらない。
自衛隊の施設の呼称には弾薬庫、火薬庫、貯蔵庫、保管庫などの用語があり、防衛省はこれらの用語に明確な定義付けをしていなかったという。与那国でも、中身をあいまいにしたまま施設が整備されてきた。住民が十分な説明を受けたとは到底いえない。
当初から各施設には意図する用途があったはずであり住民への説明をあえて避けたと受け取らざるを得ない。
貯蔵庫や保管庫と火薬庫、弾薬庫では、受け取る意味はまるで違う。明確な定義を欠いたままでは、住民はどのような施設ができて、どのような危険性があるのか、安全性は確保されるのかなど、予測すらできない。正確な情報を住民に示さなかった政府の姿勢は、誠意を欠いている。
岩屋毅防衛相は28日の閣議後の会見で与那国島の火薬庫について「隠すような意図は全くなかった」と釈明した。一方で明確性を欠く呼称、呼び方については「誤解を招いた向きがあったかもしれない」と言及した。
火薬類取締法などで火薬庫などは規定されているが、問題は、その規定にのっとった施設であることを示さず、「貯蔵庫」というあいまいな表記で建設を進めたことである。住民の生活や生命にも関わる情報である。
岩屋氏は会見で「火薬類を貯蔵するものについては法律上の名称である火薬庫に統一して説明するよう指示をしている」と言及した。そもそも宮古島で問題が発覚した時点で、与那国島の住民へも速やかな説明義務が生じていたはずである。遅きに失した対応と言わざるを得ない。
与那国島では、陸自沿岸監視隊配備の賛否をめぐって住民投票が行われた。投票の意思形成に当たり、十分な情報が開示されていたとは言えまい。改めて住民に対する説明責任を果たすよう防衛相には強く求めたい。