幻冬舎社長のツイート なぜ不快感を与えたのか - 毎日新聞(2019年5月22日)

https://mainichi.jp/articles/20190522/ddm/005/070/057000c
http://archive.today/2019.05.22-000753/https://mainichi.jp/articles/20190522/ddm/005/070/057000c

幻冬舎見城徹社長が、同社から出版された作家の津原泰水(やすみ)さんの著書について、業界の慣例を破って実売部数をツイッターで公表した。
売れていない本であることを、言い触らすような内容だ。
津原さんは、同社から刊行された百田尚樹さんのベストセラー「日本国紀」について、「コピペに満ちた自国礼賛本」などと批判していた。それが原因で、同社から刊行予定だった文庫本の出版が取りやめになったと訴えていた。
津原さんと担当編集者が出版取りやめの経緯などをめぐり対立する中で投稿されたのが、トップである見城社長のツイートだ。
作家の高橋源一郎さんや平野啓一郎さんらが不快感を表明したのを受けて、「本来書くべきことではなかった」などと、翌日には投稿を削除して陳謝した。
実売部数は今後の執筆活動にもかかわる、作家にとって非常にセンシティブな部分だ。それを了解なく公表するのは、高圧的で作家への敬意に欠けると言われても仕方がない。
ましてや、出版した本を売るのは、作家だけではなく、出版社の責任でもあるはずだ。
とはいえ、これほどの騒動になったのは、自社のベストセラー本への批判を抑え込むような形で、気に入らない作家をおとしめようとしたからだ。
出版界に新風を吹き込む役割を果たした人ではある。ただ、騒動のきっかけになった本への疑念については正面から答えず、禁じ手ともいえる手段で封じようとしたことに、言論の担い手としての姿勢も問われたのではないか。
日本では毎年7万点以上の新刊書籍が出版されている。しかし、出版不況の中、売れる本と売れない本の二極化が明確になってきている。
言論が右傾化するなかヘイト本がベストセラー化し、売れるとなれば次々と出版されるのは、その現象の一つの表れだろう。
出版社も企業である以上、利益を追求するのは当然のことだ。かたや、言論の多様性を担保するのも出版社の役割のはずだ。
売れているかどうかだけで本や作家を評価する風潮が広がれば、さらに出版の先細りを招く。