「合区救済」法案が成立へ 参院は主権者を遠ざけた - 毎日新聞(2018年7月12日)

https://mainichi.jp/articles/20180712/ddm/005/070/057000c
http://archive.today/2018.07.12-073316/https://mainichi.jp/articles/20180712/ddm/005/070/057000c

来年夏の参院選は選挙区と2種類の比例代表で当選者が決まる複雑な制度になることが事実上確定した。
「合区」で立候補できなくなる現職議員の救済を目的とした公職選挙法改正案がきのうの参院本会議で可決されたためだ。参院選挙制度衆院で修正することは考えにくく、今国会で成立する見通しとなった。
投票価値の平等を目指す抜本改革にはほど遠く、自民党の身勝手な都合で参院を私物化するのに等しいと私たちは反対してきたが、与党が数の力で押し切った。
そもそも都道府県単位を基本とする参院選挙区の一部に合区を導入したのは、あくまで「1票の格差」を是正する暫定措置だったはずだ。
来夏の参院選までに抜本的な見直しへ向け「必ず結論を得る」と公選法の付則に定めておきながら、立法府自らそれを破って平気なのか。
今後も「鳥取・島根」「徳島・高知」の合区が維持される一方、1票の格差とは全く関係のない比例代表の定数が「4増」となり、政党の比例名簿に「特定枠」が設けられる。
合区であぶれる候補者を特定枠で救済するのが自民党の狙いだ。合区制度の本来の目的を否定する「裏口入学」にほかならない。
改正案に特定枠の使い方が定められているわけではないから、合区に現職のいない他党は女性候補を名簿上位に並べるなど自由に活用すればよいと自民党は主張する。
政党側はそれでよくても、複雑怪奇な選挙制度を押しつけられる有権者はたまったものではない。
特定枠は政党があらかじめ名簿順位をつける「拘束名簿式」となる。個人名の得票順に当選者が決まる「非拘束名簿式」と混在させる理屈が立たない。同じ比例選出議員の間に特定枠の当選者とそれ以外という新たな「格差」も生じる。
改正案には埼玉選挙区の定数「2増」によって1票の格差を抑える最小限の措置も盛り込まれている。
これを受け入れる一方で全体の定数は増やさない「2増2減」案を野党は提出していた。制度をゆがめる特定枠をやめ、野党の主張に耳を傾ける選択肢もあったのではないか。
国民と国会をつなぐのが選挙制度だ。それを党利党略でもてあそび、主権者を遠ざけた参院の罪は重い。