「戦争で奪還」 平和主義を踏みにじる - 東京新聞(2019年5月15日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019051502000186.html
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国会議員として許されない発言だ。丸山穂高衆院議員が戦争による北方領土奪還の是非を元島民に問うた。戦争放棄憲法を無視する発言で国民の代表たる資格はない。議員を辞職すべきは当然だ。
「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」
日本国憲法九条第一項である。九九条で「憲法を尊重し擁護する義務を負う」と定められた国会議員の一員なら、知らないでは済まされない条文だ。
しかし、北方領土へのビザなし交流訪問団に同行していた丸山氏(35)=大阪19区、日本維新の会が除名処分=は十一日夜、国後島の宿舎で、元島民で訪問団長の大塚小弥太(こやた)さん(89)に「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか反対ですか」と問い掛けた。
大塚さんが「戦争なんて言葉は使いたくない」と答えると、丸山氏は「戦争をしないと、どうしようもなくないですか」と述べた。
丸山氏は酒に酔った状態で、訪問団事務局が禁止しているにもかかわらず外出しようとしたり、大声で騒いだりしたため、注意を受けた、という。
丸山氏は十三日深夜、東京都内で記者団に対し、「多くの方に不快な思いをさせ、おわびする。不適切な発言を撤回したい」と語ったが、発言を取り消せば済むという程度の話ではない。
国内外に多大な犠牲を強いた先の大戦の反省から、戦争放棄と戦力不保持を憲法に明記した。平和主義は国民主権基本的人権の尊重と合わせて憲法の三大理念だ。
外国による「不法占拠」が続く日本固有の領土は平和的な外交手段によって取り戻すべきであり、戦争という強硬手段で奪還すべしと考えているのなら、極めて不穏当で、平和主義を踏みにじる。
ましてや国会議員としての発言だ。憲法の条文を理解せず、尊重も擁護もできないのなら、そもそも国会議員たる資格はない。
丸山氏は二〇一五年末にも東京都内で飲酒後に口論になった一般人の手をかむなどのトラブルを起こした。当時、党から厳重注意を受け、公職にいる間は断酒し、飲酒した場合は議員辞職する意向を示したという。もはや丸山氏がいる場所は、国会にはない。
憲法を理解せず、尊重しない人物が国会に送り込まれてはならない。国民の代表を選ぶ私たち有権者の責任を、戦争を放棄した憲法の重みとともに確認したい。