[長官訪米と移設問題]語るべき事語らず何を - 沖縄タイムス(2019年5月13日)

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菅義偉官房長官は、事実上の「外交デビュー」と位置づけられた4日間の訪米日程を終え、12日帰国した。
拉致問題担当相として拉致問題の解決に向け日米の連携を確認することが、訪米の主な目的だった。
米国側は、ペンス副大統領やポンペオ国務長官、シャナハン国防長官代行らトランプ政権を支える主要閣僚が相次いで会談に応じた。
シャナハン国防長官代行やペンス副大統領との会談では、辺野古問題も取り上げられ、引き続き推進することを確認したという。
菅氏はこの機会に、知事選や県民投票、直近の衆院沖縄3区補選で示された民意を米国要人に伝え、県との話し合いによる打開を提案すべきであった。
それが沖縄の基地負担軽減を担当する官房長官の重要な役割のはずだ。
だが、辺野古埋め立てを進める姿勢は少しも変わらなかった。
日米両政府は今回に限らず会談のつど、辺野古移設が唯一の選択肢だと、メディア向けに発表してきた。繰り返し、何度も。
政策に唯一というものはない。「辺野古唯一論」が繰り返し発信される事態は、あまりにも異様である。当事者である県民はカヤの外だ。
政府は「負担軽減のため」だと主張するが、多くの住民は埋め立てによる新基地建設に納得していない。長期にわたって抵抗が持続し、その勢いが衰えないのは、政府の案に無理があるからだ。

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1996年4月、普天間飛行場の移設返還を明らかにした橋本龍太郎首相は当初、二つの点を強調していた。
一つは、地元の頭越しに進めないこと。もう一つは既存の基地内にヘリポートを建設すること、である。
復帰後の基地返還は、都市部にある米軍基地の隊舎や倉庫などを中北部の既存の基地に移設し、それによって都市部の基地返還を促進する、という考えにたっていた。
橋本氏の主張は、この流れに沿ったものだ。
だが、こと普天間返還に関しては、譲れない最低限の条件さえ維持することができず、後退に後退を重ね、「沖縄の負担軽減」という側面は薄らいでいった。
現行の辺野古案は、海兵隊を将来も沖縄に引き留めておきたい政府と、日本政府の予算で辺野古に新たな基地をつくり北部の基地を整備したい米海兵隊の意向が合致したものである。

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安倍政権は、県から埋め立ての承認を得ると、県民投票の結果や県の中止申し入れ、自然保護団体の危惧の声などには耳を貸さず、埋め立て工事を強行し始めた。
米軍統治下の沖縄を描いて直木賞山田風太郎賞をダブル受賞した真藤順丈さんの「宝島」は、沖縄でも広く読まれている。小説の中の復帰運動を巡る一節が、今の状況と重なって、切実に響く。
「この島の人権や民主制はまがいものさ。本物のそれらはもうずっと、本土(ヤマトゥ)のやつらが独り占めにしてこっちまで回ってきとらん」