<金口木舌>もう1人の母親 - 琉球新報(2019年5月12日)

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取材で知り合った県内の里親夫妻から今春、朗報が寄せられた。里子の青年が3月に高校を卒業し、県外の大手製造業に就職が決まったという。里親が青年を家庭に迎えたのは約7年前。小学校高学年の頃だった。「地域の中で育てる」をモットーに、字の伝統行事によく連れて行った
▼親戚ぐるみで青年に愛情を注ぎ、社会へ送り出す日を迎えた。「沖縄と文化の違う本土の生活になじめるかな」。里親の言葉には、わが子が巣立つ喜びと、見送る寂しさが入り交じっていた
厚労省によると親の病気や困窮、虐待などを背景に家庭で暮らすことのできない子どもたちが約4万5千人いる。子どもたちは児童相談所を介して、里親家庭や児童養護施設で暮らしている
▼施設の暮らしが公になる機会は少ない。ドキュメンタリー映画「隣る人」は、地方の児童養護施設で暮らす子どもたちと保育士の日常を8年にわたって丁寧に追った作品だ。子どもたちは「親代わり」の保育士と食卓を囲み、遊んだり、絵本を読んでもらったりする
▼子どもたちが育つ家族の形はさまざま。子どもの人権が守られ、ありのままを受け止めてもらえる環境が大切なのだろう
▼きょうは「母の日」。感謝の言葉を母親に伝える機会でもある。親に代わって子どもたちの育ちを支える、もう一人の母親の存在にも目を向ける必要がある。