雇い止め 法をないがしろにする - 信濃毎日新聞(2019年5月9日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190509/KP190508ETI090004000.php
http://archive.today/2019.05.09-012151/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190509/KP190508ETI090004000.php

法の趣旨をないがしろにした対応である。
東京都内の私立中高が、非常勤講師として働いていた男性を今年3月末で雇い止めにした。男性は2014年4月に採用され、年度ごとに1年間の有期契約を更新していた。
4月1日まで働けば、労働契約法が定める「無期転換ルール」が適用されて、無期限で働くことができた。その1日前だった。
ルールは有期契約の労働者の雇用安定が目的だ。13年4月の改正法施行で盛り込まれ、昨年4月から始まった。契約が更新されて通算5年を超えた場合、労働者の申し出があれば無期契約に転換される。雇用主側は拒否できない。
1年契約では将来設計ができない。突然契約を切られると生活の維持もできなくなる。それを防ぐためのルールである。
男性が契約打ち切りを通告されたのは今年2月だ。各学校の非常勤講師の採用は1月ころにピークを迎えるため、他校に応募することもできなかった。
男性が加入する労働組合は「制度の適用を逃れる脱法的な手口」と批判している。当然だろう。雇用主側の一方的な都合で、労働者の生活を踏みにじるようなことはあってはならない。
同様の雇い止めは相次いでいる。労働局などに寄せられた雇い止めに関する相談は、ルール開始前の17年度に急増し、2千件増の1万4千件余になった。
ルール開始以降も無期転換前に雇い止めされたとして、訴訟に発展するケースが相次いでいる。4月にも、横浜市中高一貫の学校法人が6年間で72人の雇い止めをしたことが判明した。
学校法人や大学、研究機関などで雇い止めが目立つ。予算が減少する中で、無期雇用への転換が増えて人件費の増大につながることを懸念しているようだ。
ルールの「抜け穴」も指摘されている。雇用年数や更新の上限などを、あらかじめ設定するのは違法ではない。このため、勤務が5年を経過する前に契約の期限を設ける雇用主が後を絶たない。
有期契約の労働者や支援団体などからは「ルール導入前の方が長く働けた」とする声も漏れる。これでは本末転倒ではないか。
労働者の4割が有期雇用など非正規だ。こうした人たちの生活が安定しなければ、社会全体に将来不安が広がり、消費は伸びず、少子化も解決しない。
有期契約の労働者の雇用安定は急務だ。制度を検証し、必要な対策を取る必要がある。