(斜面) 出演を受け入れた方々は笑いの魂を失っていないか - 信濃毎日新聞(2019年4月28日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190428/KT190426ETI090011000.php
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ヒトラーは同じ年齢で同じちょびひげのチャップリンを目の敵にした。映画の上映はむろん好意的な批評も禁じて国民の目から遠ざけた。チャップリンは「笑い」で対抗する。1940年公開の映画「独裁者」が放った風刺の矢は鋭い

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ナチ党大会の記録映画「意志の勝利」を繰り返し見てはヒトラーの一挙一動を研究した。そして独裁者「ヒンケル」を滑稽に演じている。この映画以降、本物はそのイメージに侵食されていく。やがて笑いものにされた。道化が独裁者をやっつけたのだ

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大野裕之著「チャップリンヒトラー」から引いた。この本を手に取ったのは先のウクライナ大統領選がきっかけだ。人気コメディアンのゼレンスキー氏が現職に圧勝した。平凡な教師が突然大統領になり汚職対策などで奮闘するテレビドラマを主演。これが大人気だったらしい

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大野さんは書いている。道化が権力者を倒すと今度は自分がその座に就いて新たな権威となる「悲喜劇」に終わりかねない。喜劇俳優を貫いたチャップリンは自分の作品をも笑い飛ばし、映像は受け身で信じてはいけないとメッセージを発していた、と

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安倍晋三首相が衆院補選投票日の前日、大阪の吉本新喜劇の公演に「サプライズ出演」した。6月に大阪で開く「G20」について「まあるく収めまっせ」と宣言したとか。庶民のお笑い文化は、権力を風刺するところに真骨頂があろう。出演を受け入れた方々は笑いの魂を失っていないか。