シナイ半島派遣 深い議論を欠いたまま - 信濃毎日新聞(2019年4月7日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190407/KT190405ETI090008000.php
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政府は、エジプトのシナイ半島イスラエル、エジプト両軍の停戦監視活動をする「多国籍軍・監視団(MFO)」の司令部要員として、陸上自衛隊の幹部自衛官2人を派遣する。
安全保障関連法で新設した「国際連携平和安全活動」の初適用になる。政府の判断で自衛隊の活動がなし崩しに広がっていく心配がある。海外派遣について改めて国会で議論しなくてはならない。
MFOは1982年からシナイ半島に展開しており、米国など12カ国から約1200人が派遣されている。日本は88年度から財政支援を行ってきた。
安保法は、今回のように国連平和維持活動(PKO)と内容が似ているものの、国連が統括しない活動についても自衛隊の派遣を認める規定を設けた。停戦合意の成立など、PKO参加5原則が準用される。
政府は2日の閣議で派遣の実施計画を決定した。期間は4月19日から11月30日までで、両軍との連絡調整を主な任務とする。現地の治安情勢が悪化し、安全確保が困難と判断された場合は国家安全保障会議(NSC)で審議した上で撤収するとしている。
安保法施行から3年、政府は実績作りを進めてきた。南スーダンPKOに派遣されていた部隊に新任務の「駆け付け警護」を付与したほか、自衛隊が米軍の艦艇などを守る「武器等防護」の実施を増やしている。MFOへの派遣でさらに活動が拡大する。
2017年5月に南スーダンから陸自部隊が撤収し、自衛隊の海外派遣はアフリカ東部ソマリア沖での海賊対処など、わずかにとどまる。安保法の運用を進めるとともに、国際貢献への積極姿勢をアピールしたい政権の思惑が先立つ派遣の印象が強い。
シナイ半島への部隊の派遣については、MFOから要請がないとして「検討していない」としている。本当に司令部要員だけで済むのか。将来の部隊派遣に向けた地ならしではないのか。政府の対応を注視しなくてはならない。
安保法を制定した際の国会審議は、もっぱら集団的自衛権の問題が焦点になり、多くの論点が積み残された。今回の国際連携平和安全活動も一つだ。政府は当時、想定する活動内容を詳しく説明しなかった。このまま既成事実を積み上げさせるわけにはいかない。
憲法の枠内で自衛隊が海外でできること、すべきことは何か。派遣を機に日本の国際貢献の在り方を掘り下げる必要がある。