(余録) 暴力に走りがちな少年だった… - 毎日新聞(2019年3月10日)

https://mainichi.jp/articles/20190310/ddm/001/070/171000c
http://archive.today/2019.03.10-011844/https://mainichi.jp/articles/20190310/ddm/001/070/171000c

暴力に走りがちな少年だった。複雑な生い立ちからだろう。感情をうまく表現できない。その彼が別人のように弱り切っていた。職場を転々とし、たどり着いたブラック企業で休みなく働いた末だった。
理由があった。「やっぱり施設出身の子はダメ」。そう思われ児童養護施設の後輩たちが門戸を閉ざされては困る。倒れ込んできた彼の話を何日もひたすら聞いてくれる所があった。NPO法人「日向(ひなた)ぼっこ」(東京都文京区千駄木(せんだぎ))だ。
今から13年前、別々の施設で育った男女3人が東京都内で出会ったのが始まりだ。「これから施設を退所する人たちが、自分たちのように孤独を感じないでいいように」。安心して何でも話せる「居場所」を作った。
創設者の一人、冨塚正子さんが施設を出たのは18歳の春だ。勤め先の寮で初めて迎えた夜。静けさの中で「これからはだれにも頼らずひとりで生きていくのか」と思い、涙が止まらなかった(「『日向ぼっこ』と社会的養護」)
あの疲れ切っていた少年は、もう日向ぼっこの常連ではない。ただ年末になると顔を見せに来る。「何かあればそこに行ける。疲れた羽を休められる止まり木があることを知ってもらいたい」と担当者は言う。
巣立ちの春。初めて1人で夜を過ごす若者たちがいる。重いハンディを背負わされ、上手に飛べないのに現実は厳しい。日向ぼっこのような止まり木は、全国で約20カ所。人もお金も全然足りない。だがそれは、変われる余地が十分あることも意味している。