ゴーン被告保釈 「人質司法」から脱却を - 琉球新報(2019年3月7日)

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日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告が保釈された。3回目の請求でようやく認められた。証拠隠滅や逃亡の恐れが大きくないと東京地裁が判断したのである。
否認すれば勾留が長引く「人質司法」は日本の司法制度の問題点としてかねて批判されてきた。精神的に追い詰められ、早く釈放されたい一心から、やってもいない罪を認めてしまう可能性もある。冤罪を生む温床ともいえる。
国際的な実業家であるゴーン被告の逮捕によって、日本の刑事司法制度の後進性が浮き彫りにされた。否認している限りなかなか保釈が認められない現状は人権上、問題が大きい。「人質司法」からの脱却が急務だ。
 会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されたゴーン被告は全ての起訴内容を一貫して否認している。身柄拘束は108日に及んだ。保釈保証金は10億円だ。保釈に際し、住居の出入り口への監視カメラの設置と録画映像の提出、携帯電話の使用制限、海外渡航の禁止、日産幹部ら事件関係者との接触禁止といった厳しい条件が付された。
監視カメラの設置など、被告の人権を侵害するような措置は異様に映る。
裁判で有罪が確定するまでは罪を犯していないものとして扱う「無罪の推定」原則を思い起こす必要がある。
元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんは、北方領土問題に絡む事件で東京地検特捜部に逮捕され、512日間勾留された経験を持つ。その際、自身を非難する情報が大量に報じられ、事実でないものも多かったと、本紙連載「佐藤優のウチナー評論」で指摘している。ゴーン被告も同じような立場に置かれた。
佐藤さんが問題視するように、身柄を拘束されていて、反論したり情報を発信したりするすべがない中で、捜査当局側のリーク等によって事件への一方的な印象が形成されるのは公正とは言い難い。
メディア側も、被疑者・被告側の主張を対等に報道するよう努めるべきだが、勾留されている被告側の発言が伝わりにくいのも事実だ。
ゴーン被告の場合、1月に2度保釈を請求しているが、いずれも却下された。証拠隠滅の恐れがあると判断されたことが理由とみられる。
刑事訴訟法の定めによって、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、保釈は認められない。現実には、わずかな可能性でも「疑うに足りる相当な理由」となり得る。そのことが「人質司法」を常態化させた。曖昧な解釈を許さない保釈制度に改めるべきだ。
争点を絞り込む公判前整理手続きが始まらない段階で、否認している被告の保釈が認められるのは異例だという。それが異例であること自体を、異常と見るべきだ。
今回の事件を機に「長期勾留」が是正に向かうことを強く望む。