精神科身体拘束 実態見えなくなる懸念 - 信濃毎日新聞(2019年2月25日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190225/KT190222ETI090015000.php
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精神科病院で身体拘束を受けている患者は1万2千人を超す。安易な拘束による人権侵害が指摘され、長期の拘束が死亡につながった事例も少なくない。深刻な状況にありながら、実態がさらに見えにくくなりかねない。
入院や身体拘束の状況について病院ごとの調査結果を開示しない自治体が相次いでいる。市民団体による情報公開請求に対し、既に決定を出した16の都道府県・政令市の全てが非開示または一部のみの開示とした。これまで開示に応じてきた姿勢を一転した。
全国の精神科の医療機関を対象に毎年6月末時点の状況を厚生労働省都道府県と政令市を通じて調べている。昨年、厚労省が出した通知で「個々の調査票の内容の公表は予定していない」としたことが背景にある。
自治体は、この通知のほか、個人が特定される恐れなどを理由に挙げた。けれども市民団体側は、調査結果に個人を特定できる情報はないと指摘している。
手足や腰をベッドにくくりつけるといった身体拘束は2013年以降1万人を超え、10年前の2倍に増えた。長谷川利夫・杏林大教授の15年の調査では、期間は平均で3カ月余に及んでいた。
長く拘束され、体を動かせない状態が続くと、血栓ができて肺塞栓(そくせん)症(エコノミークラス症候群)などを起こしやすい。拘束後に死亡した患者は13年以降、少なくとも10人に上るという。
身体拘束は本来、自殺の恐れが切迫している場合など極めて限定的にしか許されない。時間も最小限に留め、落ち着いたらすぐ解除する必要がある。ところが、正当な理由がない拘束が横行し、入院するとまずは拘束する手順が定型化した病院さえあるという。
人を縛ることは治療ではない。むしろ症状の悪化につながる。身体の自由を奪い、尊厳を侵す不当な行為をなくさなければ、患者本位の医療は実現できない。
病床数が多く、入院日数も際だって長い日本の精神科医療は、閉鎖性がかねて指摘されてきた。民間病院が大半を占めることも実態を見えにくくしている。
病院ごとの調査は重要な意味を持つ。自治体は開示に消極的であってはならない。厚労省は通知の無用な文言を削除すべきだ。
精神科病院では、施錠した保護室に隔離される患者も1万3千人近くいる。厚労省自治体と協力して実態の調査、検証を徹底し、不当な拘束や隔離をなくす手だてを講じる責任がある。