http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019012702000132.html
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「虐待された子どもだった自分が、子どもに虐待してしまった」。東京都内の五十代の女性が、本紙子育てサイト「東京すくすく」へ告白のメッセージを寄せた。親と同じことをしていると分かりながら、自分を止められない「負の連鎖」。その苦しみと後悔を取材した。 (今川綾音)
「私の人生は、半分が虐待の被害者で、半分が加害者。虐待がニュースになって親が責められるたび、苦しい」
物心ついた頃から、両親に殴られ、蹴られた。「読むとばかになる」と漫画はちぎって捨てられた。「私はいらない子なんだ」と感じながら育った。酔って怒りだした母に、階段から突き飛ばされたことも。子どもの頃の記憶は途切れ途切れだ。
「早く家を出たい」と二十歳から働き始めた。家庭は持たないつもりだったが、交際相手との間に子どもができ、望まれて二十四歳で結婚。出産後、優しく見えていた夫のドメスティックバイオレンス(DV)が始まった。
暴力に耐える中、つらさのはけ口としたのは子どもだった。かつて自分がされたように殴り、蹴った。「何もできないんだから、家事くらいしろよ」と言葉の刃(やいば)も向けた。「育ててやってるんだ」。親から言われて一番嫌だった言葉を、何度も投げ付けた。
社会的に今より「虐待」の認知が低く、女性も虐待している意識は薄かった。「暴力を振るわれて育ったので、子に手を上げることに抵抗はなかった」と振り返る。一方、たたいた後は「親と同じことをしている」と自分を責めた。
三人の子どもを連れて離婚したが、虐待は止められなかった。持病もあって体調を崩しがちな子ども、たまる一方の家事…。夜勤もこなして一人で子育てする生活は「全てにおいて余裕がなかった」。
自分なりに一生懸命育てたつもりだったが、今、成人した子どもたちとの関係はうまくいっていない。所在を知らせてこない子もいる。
最近、一人から「虐待のストレスで心身の調子を崩した」と会員制交流サイト(SNS)で責められるようになった。正直、何をしたか、言われて初めて思い出すことも多い。「自分が親にされたことは鮮明に覚えているのに、自分のやったことはあまり思い出せない。人間て、なんて都合のいい生き物なんだ」と苦しむ。
虐待について書かれた本やニュースで親子間の「虐待の連鎖」を知り、「自分のことだ」と感じた。さらに次の世代へ連鎖することを何よりも恐れる。
同じように苦しむ人々へ、女性は呼びかけた。「今は行政の相談窓口など、助けてもらえるところがたくさんある。危ういと思ったら、一人で抱え込まず手を伸ばして。私のようにならないでほしい」◆心の傷自覚、予防の一歩
子ども虐待に詳しい東洋英和女学院大大学院・人間科学研究科長の久保田まり教授は、「虐待の連鎖とは、関係性の連鎖。学校や会社で先輩からされた指導を同じように後輩にする、というのと似た構造だ」と説明する。ただ、海外の研究では、虐待された人が子どもに虐待をする割合は三割程度。「多くの場合は連鎖しないとも言える」と強調する。
連鎖を防ぐ第一歩は「『自分には親から虐待された心の傷がある』と気付くこと」とアドバイスする。虐待やそれに近いことをした場合は「自分を過度に責めず、話せる人を探して」。
その上で「親と自分」と「自分と子ども」の関係は別物だと認識する▽子どもに対しイライラする気持ちがわくのはどんな親子にもあることだと受け入れる▽子育て不安や負担を周囲に打ち明け、助けてもらえる環境をつくる−ことが大切だと助言。また、「虐待リスクの高い親には、個別に見守る体制が必要だ」と行政などの支援も重要と指摘している。◇
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https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/support/10654/