政府デマ抑止対策 「表現の自由」が前提だ - 琉球新報(2019年1月16日)

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選挙や災害時のデマ拡散抑止に向けて、本格的な対策をまとめるため政府が検討を進めている。フェイク(偽)ニュースに影響を受けた人々の投票が選挙結果を左右しかねないという危機感が背景にあるという。額面通りに受け取っていいものだろうか。
昨年の沖縄県知事選では、明らかな偽情報や検証できない真偽不明の情報で候補者を誹謗(ひぼう)中傷する投稿がインターネット上で相次いだ。攻撃の矛先は専ら、政府と対立する玉城デニー氏(現在の知事)だった。
模範となるべき国会議員までがツイッターで事実と異なる情報を発信した。会員制交流サイト(SNS)で怪情報を流布させ他候補のイメージダウンを図る手法を選良と呼ばれる人が平然とやってのける。政治家のモラルの低下を印象づけた。
政府・与党はこのような異常な事態を放置し、傍観していた。ここへ来て唐突に「民主主義の根幹を揺るがす事態になる恐れもある」といった認識が示されるのはなぜか。
参院選などを控え、政権批判の投稿をなくしたいという思惑が透けて見える。
情報を配信している企業によって、誤った投稿内容への責任の在り方や防止策にばらつきがあるのは事実だ。一段の対応を促す必要はあるのだろうが、デマの判定は一筋縄ではいかない。
SNSには虚偽情報があふれる一方、正当と思われる批判・指摘も多々ある。デマの拡散防止を迫られたとき、情報配信事業者はどう対応するだろうか。正当な論評とフェイクの区別がつかず、一緒くたにして処理することが起こり得るのではないか。
政府は、憲法が保障する「表現の自由」に配慮し法制化は見送る方向だという。たとえ法律で規制しなくても、結果として、表現の自由が脅かされる恐れがある。
災害時のデマの拡散防止で何らかのルール作りが必要であることに異論はない。人々を混乱させ、場合によっては人命に関わりかねないからだ。昨年の西日本豪雨では「レスキュー隊のような服を着た窃盗グループが被災地に入っている」という偽情報が飛び交った。北海道地震では、再び大きな地震が起きるとのデマが拡散した。
取り組みが先行する欧州では、欧州連合(EU)が米IT企業やネット広告会社に行動規範の策定を求め、合意した。偽ニュースを流すアカウントの停止、政治広告の出稿者や出資者の明確化、ファクトチェック(事実確認)の強化などの対策も掲げる。
総務省も米IT企業や情報配信事業者に自主的な行動規範の策定を求めることを視野に入れる。表現の自由の侵害につながることがないよう、あらゆる事態を想定し、慎重の上にも慎重を期すべきだ。
SNSを利用する側には、デマの拡散に加担しないだけの分別が求められる。