デマ拡散防止 安倍政権の姿勢に不安 - 信濃毎日新聞(2019年1月18日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190118/KP190117ETI090004000.php
http://archive.today/2019.01.18-012431/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190118/KP190117ETI090004000.php

政府が災害や選挙時のデマ情報の拡散防止に乗り出す。今年半ばをめどに対策をまとめる考えだ。
災害のときに間違った情報が広がると、最悪の場合人命に関わる。選挙では結果がゆがめられかねない。対策は必要だ。
半面、政府が前面に出ることには不安を感じる人も多いのではないか。安倍晋三政権のこれまでの姿勢から見て、表現の自由が損なわれる心配が否定できないからだ。対策は民間主導で進めることを基本としたい。
昨年1年間を振り返っても、デマが流布、拡散した例は多い。7月の西日本豪雨では「窃盗団が被災地に入り込んでいる」との情報が交流サイト(SNS)などで流れた。9月の北海道地震では自衛隊発の情報として、ネット上に「数時間後に大地震が来る」と書き込まれた。
沖縄県知事選では当選した玉城デニー氏を標的とするデマが広がった。「当選したら沖縄が中国に徐々に浸食される」などの内容だった。現職国会議員が拡散に加わって批判される一幕もあった。
対策は欧州が先行している。例えばドイツは2年前に施行した法律で、SNSに対し虚偽情報や人種差別的な書き込みを24時間以内に削除するよう義務付けた。欧州連合(EU)はIT企業向けの行動規範を定めている。
そこで問題になるのは安倍政権の姿勢である。
憲法は国民の権利の中でも表現の自由を特に手厚く保護している。政治に参加するために必要不可欠な権利だからだ。今の政権がその意味を十分に理解し、尊重しているとは思えない。
例えば自民党は4年前、テレビ局幹部を党本部に呼び番組を巡って「事情聴取」している。放送内容に口を挟むことを禁じた放送法に違反する可能性が高い。
安倍首相自身、2014年総選挙の時に出演したテレビ番組で、政権に批判的な声が街頭インタビューで多く紹介されたことに対して「選んでますね。おかしいじゃないですか」とかみついた。
政府は具体的な対策として、米IT企業や日本のネット事業者に自主的な行動規範の策定を求めることを検討している。自主的な規範といっても、進め方によっては政府による強制になる。
デマ情報の拡散と抑制はいたちごっこ。関連企業が本気で取り組み、工夫を凝らさないと効果が上がらないだろう。政府はバックアップに徹するべきだ。