新成人 罪と向き合い、強い自分に 「更生」育む少年院だからこそ - 東京新聞(2019年1月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019011302000142.html
https://megalodon.jp/2019-0113-0955-08/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019011302000142.html

多摩少年院(東京都八王子市)で十一日、在院者の二十歳の門出を祝う成人式が開かれた。少年法の適用年齢を二十歳未満から十八歳未満に引き下げる改正が検討されている中、教官らは「もう二度と被害者を生まないように」と、少年たちの自律性を高める矯正教育のあり方を模索している。 (福岡範行)
「迷惑ばかりかけた分、人を幸せにできる大人になりたい」「責任を自覚したい」。式典では、スーツ姿の新成人四十六人が一人ずつ体育館の壇上に上がり、誓いの言葉を述べた。
参列した保護者に向け、新成人が「ありがとう」と頭を下げる姿も。壇上のスライドには新成人の幼いころの写真が映し出され、保護者の愛情あふれるメッセージが読み上げられた。
木村敦院長は「目立たずとも力強く、地道に自分の人生をしっかり歩んでほしい」と呼び掛けた。
多摩少年院は、十七歳以上の少年約百七十人が生活している。十八歳以上が九割に上り、二十歳が全体の二割を占める。
在院期間は約一年。少年たちの生い立ちや交友関係を踏まえ、生活や職業の指導、高卒認定試験に向けた授業などを行っている。
再犯を防ぐため、力を入れているのが、出院直前の二カ月余りに行う「出院準備教育」だ。昨年十月末、少年十九人が出院準備寮で車座になり、「対人関係」をテーマに話し合っていた。具体的な話題や進行は、少年たちに任せている。
ある少年が「強い人には何も言えないってこと、ない?」と悩みを打ち明けると、ほかの少年が「逃げる、じゃダメなの?」「たぶん逃げられないから困りそう」などと応じた。
少年たちは仲間の誘いを断れずに罪を犯したケースが多い。近年はニセ電話詐欺の「受け子」などを引き受け、入院する少年が増えている。そのため、少年同士で話し合いを繰り返し、周りに流されず、自分の考えを言える習慣を身に付けてもらおうとしている。
仲間の誘いで器物損壊に加わったという少年(19)=横浜市出身=は、取材に「誘いを断れなかったら、少年院での時間が無駄になってしまう。自分で判断する勇気を持ちたい」と決意を込めた。法務教官の森川洋一さん(34)は「再犯を踏みとどまるには、自分の頭で考え、思考停止しないことが大切」と強調する。

少年法適用、18歳未満に引き下げ検討 日弁連「教育機会奪われる」
少年法の適用年齢を二十歳未満から十八歳未満に引き下げるか否か、法制審議会(法相の諮問機関)で検討が続いている。早ければ今年にも、国会に改正案が提出される可能性がある。日弁連などは「更生の機会が奪われる」「少年事件は減っており、少年法が有効に機能している」と反対している。
選挙権や国民投票の年齢が十八歳以上に引き下げられ、約二年前に検討が始まった。昨年は民法成人年齢も十八歳に改正された。
現行少年法では、捜査機関は少年事件の全てを家庭裁判所に送致。家裁は少年審判を開き、罪が重い場合は検察官送致(逆送)としたり、保護観察や少年院送致などの保護処分として更生を図ったりしている。適用年齢が十八歳未満に引き下げられると、十八、十九歳は成人と同じ扱いになり、家裁を経ずに検察が処分を決めるため、少年院のような矯正教育を受けられなくなる恐れがある。
法制審は、刑務所でも少年院の教育手法を活用することを検討している。だが、少年法に詳しい須納瀬(すのせ)学弁護士は「二十四時間体制で生活指導し、他の在院者の言動で自分自身の課題に気づく体験は刑務所ではできない」と指摘している。