(強制不妊被害の救済)国の責任を明確にせよ - 沖縄タイムス(2018年12月25日)

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優生保護法下で障がい者らへ強制不妊手術が行われた問題で、与野党は救済法案を一本化して基本方針をまとめた。来年4月ごろ、通常国会議員立法で法案を提出する見通しだ。
旧法制定から70年、「障がい者差別に当たる」として「優生手術」の条文が削除されてから22年。救済に向けて一歩を踏み出したことは、一定の評価ができる。
だが、非人道的な政策に対し被害者側が求める内容からはまだまだ不十分だ。
基本方針は「おわび」と一時金の支給が柱である。
前文に「反省とおわび」として「(被害者が)心身に多大な苦痛を受けたことに対し、われわれは真(しん)摯(し)に反省し、心から深くおわびする」と盛り込む。
主体を「われわれ」と表現し、被害者側が求めていた「国」と明確にしなかった。
「われわれ」とは誰か。
与野党は「議員立法で旧法を制定した国会や、旧法下で手術を進めた政府も含む」と説明するが、ならばそう書き込むべきだ。反省とおわびの主体があいまいのままでは責任の所在もはっきりしない。
旧法の違憲性にも言及していない。
全国各地で国家賠償請求訴訟が進行中のためとみられるが、子どもを産み育てる自己決定権が侵害される違憲な法律だったにもかかわらず、これに触れないのは問題を矮(わい)小(しょう)化するものと言わざるを得ない。
国による謝罪が救済の出発点である。

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被害認定は専門家でつくる審査会を厚生労働省に設置して厚労相が行うという。
厚労省は強制不妊手術を押し進め、かつ救済を放置してきた当事者である。厚労省が被害認定を行うのは疑問だ。第三者機関を立ち上げるのが筋である。
基本方針では、一時金は居住地の都道府県知事を通じて本人が請求するとしている。
果たしてこの方法は現実的だろうか。不妊手術を周囲には知られたくない人が自ら名乗り出るのは難しい。
障がいがあるために、自分が不妊手術を受けたことを知らなかったり、法律の施行が把握できていなかったりすることも想定される。救済の実効性への疑問が拭えない。
手術記録などを把握している行政がプライバシーに配慮しながら、慎重に個別に通知する方策を探ってほしい。
不妊手術を受けた障がい者は約2万5千人。うち同意のない強制手術は約1万6500人で個人名記載の資料は3割しか残っていないといわれる。国と地方自治体が連携を密にしなければならない。

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2016年に相模原市の知的障がい者施設で19人もの入所者が元職員に殺害された事件も「優生思想」につながる考えからだった。
強制不妊手術という過ちを二度と繰り返さないためにも負の歴史である被害実態を徹底的に分析・検証する作業が不可欠である。
検証は私たち一人一人が障がい者への強制不妊出術が行われた事実に向き合うためにも必要である。