http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018121202000263.html
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東京電力福島第一原発から100キロ以上離れた山形市蔵王で採れ、店先に並んだ野生のキノコに食品基準を超える放射性セシウムが含まれていた。出荷規制がない「安全」とされる地域だが、山の幸はまだ原発事故の放射能リスクと隣り合わせ。行政は出荷前の測定を促すものの、費用面で個人には限界があるのが実情だ。 (大野孝志)
蔵王の山でキノコや山菜を採り、「道の駅」に卸して生計を立てている山形県大江町の木村隆一さん(67)は今年九月、思わぬ事態に直面した。厚生労働省の抜き打ち検査で、採取したサクラシメジから食品基準値(一キログラム当たり一〇〇ベクレル)を超えるセシウムを検出したのだ。木村さんは「規制されていないから安全と思って採ったんだけどな。それで引っ掛かるなら、安心して卸せないよ」と嘆く。
原発事故後、木村さんは山菜のコシアブラが放射能に汚染されやすいと聞けば、仲間とともに民間の測定機関に依頼し、安全性を確かめてきた。基準値を超えたことは、このサクラシメジまで一度もなかった。
測定には、検体一件につき八千円かかる。福島県では採った人が自分で食べる物なら、市町村役場やNPO法人などに持ち込めば無料で測れる。しかし山形県によると、県内で無料測定をしている自治体は、コシアブラの出荷自粛が続く最上町だけ。対象は、採った人が自分で消費する物に限られている。
木村さんは「測定費はけっこうな負担になる。採取を山ごと規制し、国や自治体が責任を持って種類ごとに安全を確認してから、採っても良いとしてほしい」と訴える。
山形県林業振興課の担当者は「県は林産物を測定しており、基準値を超えれば、市町村に出荷自粛を要請する。今秋の県の測定では、自粛に値するレベルの物は出ていない」との考えを示した。木村さんのような個人での測定については、「費用の賠償について相談があれば対応するよう、東電に要請している」と説明した。◆14県で出荷制限・自粛 「自治体が再調査を」
木村さんの案内で十月、食品基準値を超えたサクラシメジが生えていた林で、野生のキノコを採取。独協医科大国際疫学研究室福島分室(福島県二本松市)の協力を得て、放射性セシウムがどれぐらい含まれているかを調べた。
その結果、初冬まで採れ、鍋や汁物に入れて食べるクリタケから、基準値を超える一キログラム当たり一四七ベクレルを検出。他のサクラシメジやウラベニホテイシメジは五〜一〇ベクレルと低かった。
林は山形市中心部から車で三十分ほどで、道端にはキノコ狩りに来た北関東ナンバーの車が何台も止まっていた。木村さんは「ここで採ったキノコを食べれば内部被ばくする恐れがある、ということですね」と表情を曇らせた。野生キノコの放射能汚染は広範囲に及び、東日本の十四県で市場への出荷制限や自粛が続く。同大福島分室長の木村真三准教授(放射線衛生学)は「山の木や雑草が土中のセシウムを濃縮し、それが腐葉土になり、土の表層にたまる。キノコはセシウムを濃縮する性質があり、原発事故後に一部でも出荷が制限されていた自治体では、新たに全ての地域を再調査する必要がある」と指摘した。