「給食中は私語一切禁止」学校を取り巻く“不自由”の実態 (1/2) - AERA(2018年12月4日)

https://dot.asahi.com/aera/2018120300053.html

時代に合わない規則、忙しすぎて子どもに向き合えない先生、自分の子どもの教育に熱心になるあまりに周りが見えない親……。「学校が不自由だ」という声が数多く寄せられた。いまこそ学校現場の改革が必要だ。

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昼どきの小学校は誰もいないのかと思うくらい静かだった。授業参観のため学校を訪れた女性(45)は、当時1年生だった娘の教室の後ろ扉をそーっと開けた。すると、目にとびこんできたのは、全員が前を向いて黙々と給食を食べる姿。
私語は一切なし。楽しいはずの食事の時間がなにかの訓練の場のように見えた。参観に来ていたほかのママ友たちとアイコンタクトで外に出て、首を傾げた。女性は言う。
「『黙食』と呼ばれる指導なんです。子どもたちがしゃべりながら食べると時間がかかるかららしいです。娘は入学したばかりのころ、給食の時間が怖いと泣いたこともありました」
娘は食べることが好きで、おいしければ「おいしいね」と言わずにいられないし、初めての食べ物を見たら「これ何?」と聞かずにはいられない。でもそうすると、先生にシーッと注意されてしまうのだ。
アエラでは「学校を不自由にしているものは何?」と題したアンケートを11月に実施した。この問題への関心は高く、インターネットなどを通じて2週間で、親や先生682人から回答が集まった。「子どもたちにとって、学校が不自由だと感じますか」との問いでは、「非常に感じる」(56.2%)と「感じる」(37.1%)が合わせて9割以上に上った。
「不自由」の正体はいったい何なのか。
アンケートでは「体感温度は人それぞれだが、制服の冬服・夏服の期間を指定される」「体育は一年中半袖短パンという決まり」「下着の色にまで干渉する」など、服装を始めとする学校生活の細部にわたって自由がないという声も目立った。
小学生の子どもをもつ保育士の女性(43)は、こうした校則に無念さがこみあげる。勤める保育園では0歳からの未就学児を預かる。
「寒かったら、自分でもう一枚着ようね」
「汚れたって気が付いたんだね。じゃあ着替えてらっしゃい」
小学校に上がるまでに、自らの状況を判断し自分で行動できるよう指導している。それなのに、小学校に上がった途端「判断してはいけなくなる」とは。
「なんでも一律に決めてしまえば、先生も子どもも考えずにすむので楽かもしれませんが、そこで失われるものは大きいと思います。多様性は大事にされていないのでしょうか」
学校の不自由さを感じているのは子どもや親だけではなく先生もだ。アンケートでは、「先生としても学校が不自由か」を聞いたところ、不自由と回答した人は96%に上った。
30代男性の中学教員は朝、靴箱の前に立つと気が重くなる。担当学年、約200人分の生徒の靴を見て出欠確認し職員室の黒板に書くという業務があるからだ。もちろん各教室では担任が出欠をとる。
なぜ、靴箱でも出欠確認をする必要があるのか、他の教員に聞いても「これまでやってきたから」「自分の学年だけやらないわけにはいかない」といった答えしか返ってこない。
管理職に尋ねても、合理的な理由はわからない。実際、職員室の黒板に書かれた出欠情報を見ている教員はほとんどいない。
「いったん決めたことが形骸化しても、見直してやめるという発想が学校現場にはありません。だから忙しくなる一方です。慣例的に行われてきたことについて、上の人間に問いただすこと自体、はばかられる空気もあって完全に思考停止状態です」
首都圏の小学校に勤める男性教員(39)の学校では、「筆箱の中は鉛筆5本と赤鉛筆1本、定規、消しゴム」と決められている。さらに「消しゴムの色は白」と指定されているが、その理由まではわからない。
「本来であればなぜその決まりがあるのかを考えたり、どうあるのがベストなのかを教員たちで話し合うべきなのかもしれませんが、その余裕がありません」
先生たちの不自由の背景には「忙しさ」があるという声は多かった。この男性は、朝8時に学校に入ったあと約10時間、休憩なしのノンストップだ。午前中の授業を終えると、給食、昼休み、掃除の指導と続く。給食中は、話に夢中になる子がいれば声をかけ、食の細い子は励まし、自身が落ち着いて食べる暇はない。規定では15時半ごろに45分間の休憩があるようだが、そんな時間は取れたためしがない。放課後も、会議や校務、次の日の授業準備や学級の仕事、さらに行事の準備ときりがない。
「仕事の絶対量が多く、勤務時間内にとても収まりません。オーバーフロー状態です」
男性は家にも仕事を持ち帰る。学期末の忙しい時期は深夜にまでおよぶ。多様性を尊重したくても、とても考える余裕がないという。(編集部・石田かおる)

AERA 2018年12月10日号より抜粋